関口鍈太郎

関口 鍈太郎

関口 鍈太郎（せきぐち えいたろう）は、1896年10月30日に名古屋市に生まれ、1981年7月21日に逝去した、日本の造園学の黎明期から発展期にかけて活躍した造園家、造園研究者、そして林学者です。その生涯は、日本の造園学の確立、教育、そして実践における多大な貢献によって特徴づけられます。

教育と研究の確立

第八高等学校を経て東京帝国大学農学部林学科で学び、卒業後は同大学の講師を務めました。その後、1925年（大正14年）に京都帝国大学農学部林学科へ助教授として着任したことは、彼のキャリアにおいて極めて重要な転機となります。この京都の地において、関口は日本で初めて「造園学」の名を冠する講座の創設に深く関わり、わが国における大学レベルでの造園学教育の礎を築きました。戦後も京都大学（旧京都帝国大学）において造園研究室の主宰者として、数多くの優れた人材を育成し、日本の造園界に多大な影響を与えました。

京都大学での本務に加え、1955年以降は西京大学時代の京都府立大学や島根大学農学部、高知大学農学部など、全国各地の大学でも教鞭をとり、造園学の普及と発展に貢献しました。

海外研究と先進的緑地思想

関口は、1927年3月から1929年7月にかけて欧米へ留学し、現地の造園、特に都市公園や緑地の研究に没頭しました。第一次世界大戦前後のドイツが、イギリスやアメリカを凌駕するほどの緑地整備を進めていた実態をいち早く把握し、その知見を日本に紹介しました。特に、国民の健康増進と青少年の精神的な育成を目指した「フォルクスパルク（国民公園）」や、都市住民が小さな土地で園芸を楽しむ「分区園（クラインガルテン）」の重要性を説き、その理念を日本に広めることに尽力しました。これらの海外の先進事例を踏まえ、彼は日本の緑地政策の現状を冷静に見つめ、将来的な展望を示唆することで、後進的であったわが国の都市緑地の推進に大きな功績を残しました。

経歴と社会貢献

京都帝国大学では1936年3月に教授に昇任。学内では京都大学評議員や農学部附属演習林長を兼任し、大学の運営と発展にも貢献しました。1959年10月には定年退職し、京都大学名誉教授の称号を得ました。学外においては、1961年から1963年まで日本造園学会会長を務め、学会活動を通じて造園学の発展に貢献しました。また、都市計画京都地方審議会、文化財専門審議会（1952年～1976年）、京都市風致審議会など、重要な各種審議会の委員を長年にわたり歴任し、造園学の専門知識を国の政策や地方の計画に活かしました。

造園実務と先駆的国土利用論

研究者・教育者としての活動に加え、関口は実践的な造園設計にも携わりました。和歌山県立田辺商業高等学校や別府公園などの国内での設計に加え、当時の釜山府公園計画や清津公園計画を策定するなど、国際的な視点からの貢献も行いました。特に注目すべきは、彼の国土利用に関する先駆的な思想です。若い頃から、都市周辺の農耕地や海岸、湖沼、河川、そして道路沿いの土地など、国民のレクリエーションに利用できる可能性のある土地は、公的な利用のために合理的な保護と保全策を講じるべきであると主張していました。この卓見は、現代において広く議論されている国土の適切な保全と利用に関する主張の先駆けであり、半世紀以上も前に彼によって既に提唱されていたことは、その思想の先進性を示しています。

評価と著書

長年の多岐にわたる功績が認められ、1968年には勲二等瑞宝章を受章しました。晩年も1975年から1981年7月まで桂離宮整備懇談会の委員を務めるなど、その専門的知見は最後まで社会に求められました。

関口鍈太郎は、日本に造園学を学問として根付かせ、その教育と研究を推進した第一人者であると同時に、先進的な緑地思想や国土利用に関する提言を通じて、日本の美しい景観の保全と創造、そして国民の豊かな生活環境の実現に大きく貢献した、日本の造園史において特筆すべき人物です。

主な著書には、『造園技術大成 設計・施工』（養賢堂）などがあります。

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