闇をさまようもの

ラヴクラフト生前最後の衝撃作『闇をさまようもの』：謎めいた怪死と禁断の宗教団体の深淵

ハワード・フィリップ・ラヴクラフトの代表作の一つとして知られる『闇をさまようもの』(原題:The Haunter of the Dark)は、1935年に執筆され、1936年12月にパルプ雑誌『ウィアード・テイルズ』に掲載されました。これは、ラヴクラフトが生前に発表した最後の小説であり、クトゥルフ神話の中でも特に重要な位置を占める作品です。

物語は、若い怪奇作家のロバート・ブレイクの不可解な死から始まります。プロビデンスに移住したブレイクは、廃墟と化したフェデラル・ヒルの教会堂に強い興味を抱き、そこに潜む謎を解き明かそうとします。その教会堂はかつて、「星の知恵」という神秘的な宗教団体が活動していた場所でした。

ブレイクは、教会堂の探索中に、1893年に消息を絶った記者、エドウィン・M・リリブリッジの遺骨を発見します。しかし、この発見をきっかけに、ブレイク自身も不可解な死を遂げるのです。落雷による感電死と推測されましたが、密室状態だった部屋には、窓ガラスが割れた痕跡はありませんでした。ブレイクが残した日記には、死の直前まで襲いかかる恐怖が克明に記録されており、読者に背筋を凍らせるような恐怖を与えます。しかし、事件の真相を探る鍵となるはずの箱は、医師によって海に捨てられてしまい、謎は深まるばかりです。

この物語は、単なる怪奇小説にとどまりません。ラヴクラフト特有の宇宙的恐怖が、読者の想像力をかき立て、底知れない恐怖へと誘います。ブレイクの死の真相、そして「星の知恵」の秘密とは一体何なのか？読者は、物語を読み進めるうちに、次第に深まる謎に翻弄され、絶望的なまでに広大な宇宙の恐怖に直面することになります。

『闇をさまようもの』は、ロバート・ブロックの小説『星から訪れたもの』への応答として書かれたという興味深い経緯を持っています。『星から訪れたもの』で、ブロックはラヴクラフトをモデルにした作家を殺害するという設定を用いており、ラヴクラフトは、この小説への返答として、ブロックをモデルにしたブレイクを物語の犠牲者として描いたのです。このメタフィクション的な要素も、作品に独特の深みを与えています。

物語には、古代エジプトのファラオ、ネフレン＝カや、クトゥルフ神話の重要な存在であるナイアーラトテップといった要素が登場します。また、ブレイクが発見した「輝くトラペゾヘドロン」という古代遺物も、物語の重要なカギを握っています。「星の知恵」の廃教会には、禁断の書物が多数保管されていたとされ、その書物の中には、宇宙の恐るべき真実が記されていたのかもしれません。

さらに、ブレイクの著作を題材としたクトゥルフ神話短編が、他の作家によって創作されるなど、『闇をさまようもの』は、クトゥルフ神話全体に大きな影響を与えた作品と言えるでしょう。

『闇をさまようもの』は、単なる怪奇小説の枠を超えた、深遠で恐ろしい物語です。ラヴクラフト特有の宇宙的恐怖と、メタフィクション的な要素、そして謎めいた事件の真相は、読者に長く忘れられない印象を残すことでしょう。クトゥルフ神話を深く理解したい方、あるいは単にスリリングな怪奇小説を読みたい方、どちらにも強くおすすめできる一作です。 様々な翻訳タイトルが存在するのも、この作品の人気の証と言えるでしょう。例えば、『闇の跳梁者』『闇に這う者』『暗闇の出没者』といった邦題があります。それぞれの翻訳が、作品の持つ独特な雰囲気を際立たせていると言えるでしょう。様々な翻訳版を読み比べるのも、この作品を楽しむ一つの方法かもしれません。

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