阪谷俊作

阪谷 俊作（さかたに しゅんさく）

日本の公共図書館史において、名古屋の図書館事業の黎明期から発展期にかけて重要な役割を果たしたのが、司書であり初代名古屋図書館長を務めた阪谷俊作です。1892年（明治25年）9月27日、子爵である阪谷芳郎と、その妻で実業家・渋沢栄一の次女である琴子の次男として、東京の地に生を受けました。

幼少期から、祖父にあたる渋沢栄一の影響を強く受け、書物をこよなく愛するようになります。渋沢栄一自身も『論語』を愛読書とする読書家であり、その知的好奇心と読書への情熱は、孫である俊作にも受け継がれたと言えるでしょう。

旧制高等学校を経て、京都帝国大学で学びを深めた後、司書としての道を歩み始めます。最初のキャリアは東京帝国大学図書館でした。ここでは事務嘱託として図書館運営の一端を担い、専門知識と実務経験を積みました。

彼のキャリアの転機となったのは、当時の東京帝国大学図書館長であった和田万吉の推薦でした。その優れた識見と実務能力を見込まれ、新たに設立される市立名古屋図書館（現在の名古屋市鶴舞中央図書館）の初代館長として、名古屋市に招致されます。1922年（大正11年）の開館準備段階から館長に就任し、太平洋戦争後の1948年（昭和23年）に至るまで、実に26年という長きにわたりその重責を担いました。

名古屋図書館長として、阪谷俊作は多岐にわたる事業を展開し、地域の図書館サービスの基盤を築き上げました。子どもたちが読書に親しむ環境を整えるために「児童図書研究会」を設置し、児童向けの図書サービスの充実に努めました。また、愛知県全体の図書館の連携強化と発展を目指し「愛知県図書館協会」の設立にも尽力し、県レベルでの図書館振興に貢献しました。さらに、視覚に障害を持つ人々にも読書の機会を提供するため、「点字文庫」を開設するなど、利用者の多様なニーズに応えるための先進的な取り組みも行いました。これらの活動は、当時の名古屋における公共図書館の機能と役割を大きく拡充し、その後の発展の礎となりました。

名古屋図書館を退職した後も、阪谷俊作は司書としての専門性を活かした活動を続けました。国立国会図書館や、貴重な古典籍を所蔵する静嘉堂文庫など、日本の主要な図書館・文庫に勤務し、資料の収集・整理・保存に貢献しました。司書としてのキャリアは30年余りに及び、その専門知識と経験は図書館界全体にとって貴重な財産となりました。

図書館業務に加えて、阪谷氏は地域の歴史や文化に対する深い関心も持っていました。戦後には複数の郷土研究団体に呼びかけ、「郷土文化会」を結成しました。この会は後に「名古屋郷土文化会」と改称され、名古屋地域の郷土史研究や文化振興において重要な役割を果たすことになります。

阪谷俊作は、このように司書として公共図書館の発展に尽力する傍ら、郷土文化の研究・振興にも貢献し、多方面でその才能を発揮しました。1977年（昭和52年）2月15日、満84歳でその生涯を閉じました（享年86）。彼の功績は、特に名古屋地域における図書館サービスの向上と、地域の文化・学術振興において、今なお高く評価されています。

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