防鎖

防鎖（ぼうさ）とは

防鎖とは、港湾や河川を封鎖し、船舶の通行を阻止するために用いられる、太くて頑丈な鎖のことです。主に軍事的な目的で使用され、敵の侵入を防ぐ役割を果たします。現代においては、潜水艦の侵入を防ぐ防潜網もその一種と言えるでしょう。また、歴史的には河川に設置し、通行料を徴収する目的で使用された例も見られます。

概要

英語では、水面に浮かぶ防材を指す「ブーム（boom）」と、水中の鎖も含む「チェーン（chain）」という2つの言葉で表現されます。

中世ヨーロッパの港では、湾口の両岸に鎖塔が建設され、そこから鎖が常時渡されていました。平時は鎖を緩めて水底に沈めておき、戦時には巻き上げて水面に引き上げ、湾口を封鎖しました。これにより、味方の通行を許可し、敵の侵入を阻止するといった柔軟な対応が可能となりました。鎖の巻き上げ・巻き下げには、ウィンドラス（ハンドル式揚錨機）やキャプスタン（絞盤）などの装置が用いられることもありました。

防鎖の有効性と限界

防鎖による防御は、必ずしも万全ではありませんでした。大型船による強行突破を受け、破壊されてしまうこともありました。例えば、ダミエッタ包囲戦、メドウェイ川襲撃、ビーゴ湾の海戦などがその例として挙げられます。また、ロンドンデリー包囲戦では、ロングボートによる体当たりで突破されています。

防鎖はそれ自体が防御設備であると同時に、港湾防衛の要として、周辺の防衛施設によって守られるのが一般的でした。帆船時代には、防鎖の後ろに数隻の軍艦が控えており、防鎖の破壊を試みる敵船を舷側砲で撃退しました。また、複数の鎖を並べて、より強固な封鎖を構築することもありました。

著名な防鎖の例

レオの市街: 教皇レオ4世がローマ防衛のために建設した城壁の一部として、テヴェレ川を封鎖する鎖が設置されました。
金角湾: コンスタンティノープルの最大の弱点であった北岸を防衛するため、北岸の要塞ガラタのカステッリオンと、対岸のエウゲニウスの塔の間に防鎖が設置されました。しかし、1453年のコンスタンティノープル陥落時には、メフメト2世の迂回策によって無力化されました。
メドウェイ川: 第二次英蘭戦争において、イングランドがメドウェイ川を封鎖しましたが、メドウェイ川襲撃によって破壊されました。
ハドソン川の防鎖: アメリカ独立戦争において、アメリカ軍が設置しました。
パラナ川: ブエルタ・デ・オブリガードの戦いにおいて、アルゼンチン軍が設置しました。

その他の関連事項

Baum (Sperranlage): 関税を徴収したり、夜間の侵入を阻止したりするための浮遊防材を含む防御施設です。
* 船番所: 江戸時代の船の関税徴収所です。

防鎖は、単純ながらも効果的な防御手段として、歴史の中で重要な役割を果たしてきました。その構造や運用方法を知ることは、当時の軍事戦略や技術を理解する上で貴重な手がかりとなります。

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