メフメト2世

メフメト2世：征服者としての生涯と遺産

メフメト2世（1432年3月30日 - 1481年5月3日）は、オスマン帝国の第7代スルタンであり、その治世は帝国の歴史において重要な転換点となりました。彼は「征服者（ファーティフ）」として知られ、コンスタンティノープルを陥落させ、東ローマ帝国を滅ぼしたことで、その名を歴史に刻んでいます。彼の30年以上にわたる治世は、領土の拡大、帝国の組織改革、そして文化的な発展を特徴としています。

生涯

幼少期と教育

メフメトは、オスマン帝国の首都エディルネで、スルタン・ムラト2世とヨーロッパ出身の奴隷ヒュマ・ハトゥンの間に生まれました。幼少期は家庭教師によって養育され、継母であるマラからコンスタンティノープルの絵を見せられたことが、彼がこの都市に強い興味を抱くきっかけとなりました。1443年には、マニサの知事に任命され、神学者グラニのもとで学問に励みました。

最初の即位と退位

1444年、メフメトは父から譲位され、スルタンの座に就きます。しかし、ハンガリーとの戦いでオスマン帝国が危機に瀕すると、ムラト2世は復位し、メフメトは帝位を返上してマニサに戻りました。この最初の即位期間は短かったものの、彼は政治的な駆け引きや帝国の運営について重要な経験を積みました。

二度目の即位とコンスタンティノープル攻略

1451年、ムラト2世が崩御し、メフメトは再びスルタンに即位します。彼は権力を確固たるものにするために、弟を殺害し、イェニチェリの忠誠を確保しました。その後、メフメトはかねてからの目標であったコンスタンティノープル攻略に着手します。1453年、メフメトはルメリ・ヒサルを建設し、ボスポラス海峡を封鎖、長期戦を避けて短期決戦を挑みます。同年5月29日、オスマン軍はコンスタンティノープルを攻略し、東ローマ帝国は滅亡しました。この勝利はヨーロッパに大きな衝撃を与え、オスマン帝国の勢力を決定的に強固なものとしました。

その後の征服と領土拡大

コンスタンティノープル征服後も、メフメトは領土拡大を続けました。彼はベオグラードの攻略には失敗したものの、ペロポネソス半島、セルビア、ボスニアを征服し、アナトリア北部のトレビゾンド帝国を併合しました。また、ワラキアやモルダヴィアといったルーマニアの国々を従属させ、その影響力を東ヨーロッパにまで広げました。

ウズン・ハサンとの戦い

1470年代には、メフメトは白羊朝のウズン・ハサンとの間で激しい戦いを繰り広げました。ウズン・ハサンはヴェネツィアと同盟を結び、オスマン帝国を挟撃しようとしましたが、メフメトは1473年のオトゥルクベリの戦いでこれを破り、カラマン侯国の旧領を併合しました。

クリミア・ハン国の臣従

1475年、メフメトはクリミア・ハン国を従属下に置きました。これにより、オスマン帝国の権威はイスラーム世界だけでなく、モンゴル系国家やモスクワ大公国にも知れ渡ることになりました。

ルーマニアとアルバニアでの戦争

1470年代後半には、モルダヴィアとの戦いで苦戦を強いられましたが、アルバニアを征服し、ヴェネツィアとの和平を結びました。これらの戦いは、オスマン帝国の支配領域をさらに広げ、その力を確固たるものとしました。

晩年と最期

1480年には、ロドス島の攻略に失敗しますが、イタリア半島南部のオトラントを占領し、ヨーロッパ諸国に恐怖を与えました。しかし、1481年、メフメトは遠征中に陣没し、その後のオスマン帝国は後継者争いによって混乱しました。彼の死は、ヨーロッパのキリスト教徒たちに歓喜をもって迎えられました。

人物像と文化的な貢献

メフメト2世は、残忍な征服者として知られる一方で、学芸と芸術に深い理解を示す人物でもありました。彼はアラビア語、ペルシア語、イタリア語、ギリシア語を理解し、宮廷には多くの知識人を招きました。また、自らも「アウニ」の筆名で詩作を行い、オスマン語による詩集『ファーティフ・ディーワーニ』を著しました。彼の宮廷には国際的な空気が流れ、ルネサンス君主の一人として数えられることもあります。彼はまた、イスタンブールを多文化が共存する国際都市として発展させることに貢献しました。

宮廷と異文化理解

メフメトは、イスラーム文化だけでなく、ヨーロッパの文化にも深い関心を持っていました。彼の宮廷では、ペルシア文学やチャガタイ語文学が愛好され、イタリアの画家ジェンティーレ・ベリーニが宮廷に滞在し、メフメトの肖像画を描きました。このような異文化に対する彼の理解は、オスマン帝国の多様性を豊かにしました。

政策と統治

中央集権化

メフメトは、オスマン帝国の中央集権化を推し進めました。彼は、征服地を分割する慣習を廃止し、カプクル（宮廷奴隷）を重用することで、帝国の支配体制を強化しました。また、統治の規則を『カーヌーン・ナーメ（法令）』に成文化し、帝国の安定化に努めました。

財政と経済

彼の治世下で、オスマン帝国の経済は発展しましたが、度重なる遠征とイスタンブールの開発事業によって財政は逼迫しました。彼は増収のために専売制度を設けたものの、民衆からの不満を買いました。しかし、彼の進めた領土拡大は、長期的に帝国に利益をもたらしました。

イスタンブールの開発

メフメトは、コンスタンティノープルをイスタンブールと改称し、イスラム教徒の都市として再建しました。アヤソフィアなどのキリスト教の教会はモスクに改築され、モスクを中心に新たな居住区が形成されました。また、ワクフ制度を利用して公共施設を整備し、バザールを建設するなど、都市の発展に力を注ぎました。彼の時代に、トプカプ宮殿の建設が開始され、帝国の政治の中心となりました。

遺産と評価

メフメト2世は、オスマン帝国の歴史において、最も重要なスルタンの一人として評価されています。彼の征服事業は、帝国の領土を大幅に拡大し、その勢力を確立しました。また、彼は文化的な発展にも貢献し、イスタンブールを国際的な都市として再興しました。彼の政策は、後のオスマン帝国の統治モデルとなり、帝国の繁栄の基礎を築きました。

まとめ

メフメト2世は、コンスタンティノープルを征服し、東ローマ帝国を滅ぼした征服者であり、同時に文化的な貢献も果たしたルネサンス君主としての側面も持っていました。彼の生涯は、征服と文化、権力と知性の複雑な相互作用を示すものであり、オスマン帝国の歴史において重要な位置を占めています。

年表

1432年3月30日 - 誕生
1444年 - スルタンに即位（1446年まで）
1451年 - 父ムラト2世崩御。2度目の即位。
1452年 - ルメリ・ヒサールを建設
1453年 - コンスタンティノープルを攻略、東ローマ帝国を滅ぼす
1456年 - ベオグラード包囲の失敗、アテネ公国を滅ぼす
1459年 - セルビア公国を滅ぼす、トプカプ宮殿の建設を開始
1461年 - モレアス専制公国、トレビゾンド帝国を滅ぼす
1463年 - ボスニア王国を滅ぼす
1468年 - カラマン侯国の大部分を併合
1470年 - ネグロポンテを制圧
1472年 - オトゥルクベリの戦いで白羊朝に勝利
1475年 - クリミア・ハン国を服属させる
1476年 - モルダヴィアへの遠征
1478年 - アルバニアへの遠征
1479年 - ヴェネツィア共和国との講和、トプカプ宮殿完成
1480年 - ロドス島攻略の失敗、イタリア遠征、オトラントの戦い（- 1481年）
1481年5月3日 - 崩御

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