阿久津流急戦矢倉

阿久津流急戦矢倉：現代将棋における急戦矢倉の新たな潮流

阿久津流急戦矢倉は、将棋における矢倉戦法の一種です。後手番で用いられ、近年、阿久津主税六段の活躍によって広く知られるようになりました。他の急戦矢倉である中原流、郷田流、渡辺流などがありますが、阿久津流と総称されることが多いのが現状です。

この戦法の特徴は、5筋の歩を角で交換した後、△5四銀と好形に組み、その後△6五歩と仕掛けるという積極的な展開にあります。5筋に上がった角は、7三に引くか2二に戻るかの選択があり、先手の対応によって持久戦に転じることもあります。

発展と変遷：歴史を紐解く

5筋の歩を角で交換する急戦矢倉という構想自体は古くから存在していました。中原誠名人が得意とした中原流は、△6四歩から△6三銀と中央から攻め上がっていくスタイルで、米長流急戦矢倉と並びかつては非常に強力な戦法でした。その後、角を7三に引く余地を残す指し方が登場し、郷田真隆九段が用いたことから郷田流とも呼ばれるようになりました。

羽生善治九段と谷川浩司九段の七冠争いにおいても頻出する戦法でしたが、その後居飛車党が後手矢倉を敬遠する傾向が強まり、阿久津流急戦矢倉を含む急戦矢倉自体が衰退期に入りました。

矢倉5手目問題における重要なテーマであり、羽生善治九段の『将棋世界』連載「変わりゆく現代将棋」でも深く検討されました。しかし、『変わりゆく現代将棋』以降はしばらく目立った変化はありませんでした。

渡辺明竜王の逆転劇：新たな注目

状況が一変したのは、第21期竜王戦七番勝負です。カド番に追い込まれた渡辺明竜王が第6局と第7局で阿久津流急戦矢倉を採用し、逆転で防衛を達成しました。この活躍により、阿久津流急戦矢倉は再び脚光を浴びることとなりました。

第6局では、渡辺竜王は既存の定跡である△5五歩を避け、△3一玉という新手を選択。羽生善治名人の仕掛けを凌ぎ、70手で勝利しました。第7局では、阿部健治郎氏が考案したとされる△3三銀という新手が用いられ、140手の激戦の末、渡辺竜王が辛勝しました。これらの渡辺竜王の勝利によって、阿久津流急戦矢倉の有効性が改めて証明されました。

対策と発展：今後の展望

阿久津流急戦矢倉に対する対策として、▲2六歩の代わりに▲5七銀右とする指し方が考案されています。△8五歩▲7七銀△5五歩▲同歩△同角に対して▲6五歩と反発し、6筋から攻め上がることで、菱矢倉模様に組み替え、厚みを作って反撃するという狙いです。

また、△8五歩に対して▲7七銀と上がらずに▲2五歩として、飛車先を交換する指し方もあります。これらの対策の登場は、阿久津流急戦矢倉のさらなる発展と洗練を促すでしょう。

まとめ

阿久津流急戦矢倉は、その積極的な姿勢と複雑な変化に富んだ戦法です。渡辺明竜王の活躍によって再び脚光を浴びたこの戦法は、現代将棋において重要な戦法の一つとして、今後ますます発展していくことが期待されます。その動向から目が離せません。

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