米長流急戦矢倉

米長流急戦矢倉：積極的な矢倉戦法とその変遷

米長流急戦矢倉は、将棋における後手番の矢倉戦で用いられる積極的な戦法です。1980年代中盤に米長邦雄永世棋聖が創案し、その名を冠することとなりました。当時、矢倉戦は後手番が受けに回る展開が多かった中、米長流は積極的に攻めに出ることで主導権を握ることを目指した画期的な戦法でした。

急戦矢倉の隆盛と米長流の登場

急戦矢倉には、米長流以外にも升田流急戦矢倉や矢倉中飛車など様々な種類があります。これらの戦法は、矢倉囲いを構築する過程で敵陣を急襲することを特徴としています。米長流は、カニ囲いを基盤とし、敵陣への迅速な攻撃を重視する点が特徴です。特に、6筋への戦力集中と、9九の香車を取って馬を作る攻めが狙い目として挙げられます。

従来、後手番の矢倉は受け身の姿勢になりがちでしたが、米長流の登場は大きな変化をもたらしました。積極的な攻めによって主導権を握れるため、多くの棋士、特に攻めを好む棋士の間で流行しました。奨励会時代からこの戦法を用いて活躍した棋士も多く存在します。米長自身もこの戦法で中原誠九段から十段を奪取、史上3人目の四冠を達成するなど、その威力は実証済みでした。

先手の対応と戦型の多様性

先手は、4六歩で角道を止めることで後手の急戦を阻止しようとします。しかし、この対応によって、先後同型矢倉という別の戦型に発展することもあります。この場合、端歩の処理や玉の矢倉への入場、どちらから攻めるかといった新たな駆け引きが発生します。これらの駆け引きは、いまだに研究が続けられている未解明な部分も多く残されています。

研究の進展と戦法の衰退、そして新たな応用

しかし、その後、米長流急戦矢倉は研究が進展した結果、次第にプロの棋戦で指される機会が減っていきました。▲7九角を早めに引くという有効な対策が見つかったこと、そして急戦の宿命とも言える玉の薄さが弱点として挙げられたことがその理由です。

それでも、米長流のアイデアは完全に消え去ったわけではありません。先手番における急戦矢倉として、後手番の無理矢理矢倉への対抗策として、時折指されるようになりました。また、藤井猛九段が考案した藤井流早囲いへの対策として応用されるなど、その戦略的価値は、時代に合わせて変化・進化を遂げているのです。

藤森流の登場と現代への継承

2011年にプロ入りした藤森哲也七段は、三段リーグ時代から米長流急戦矢倉を採用し、独自の改良を加えて「藤森流」を確立しました。これは、先手の▲3七銀～▲1五角という定跡に対して、後手が飛車先の歩交換から△8三飛と引くという形です。藤森流は、後手番だけでなく、先手番でも採用されるなど、その汎用性の高さが注目されています。2010年代後半には、後手番の3三銀と受けさせることを狙い、2五歩を活かす戦型として活用される例も見られました。

このように、米長流急戦矢倉は、その登場から衰退、そして新たな応用という歴史を経て、現代将棋においてもその影響を残しています。積極的な攻めを重視するその戦略思想は、多くの棋士に学びとインスピレーションを与え続けていると言えるでしょう。将棋戦法の進化という視点からも、米長流急戦矢倉は非常に興味深い戦法と言えます。

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