阿別当神明宮

阿別当神明宮とその石抱きケヤキ

富山県の南西部に位置する南砺市、かつての利賀村であった山間部の阿別当集落に、阿別当神明宮は静かに鎮座しています。この神社は地域の信仰の中心として大切にされてきましたが、特に境内に立つ「石抱きケヤキ」は市の指定文化財となっており、その存在感を放っています。

神社の歴史と概要

阿別当集落には、18世紀末頃までは特定の氏神が存在しない村であったと記録されています。しかし、時代が下り寛政8年（1796年）の調査以降、この地は「牛岳大明神」を祀る神社として史料にその名が記されるようになります。これは、それまでの集落の信仰形態に変化があったことを示唆しており、興味深い点です。

昭和に入ると、紀元二千六百年を記念する行事の一環として、昭和15年（1940年）に社殿の改築が計画されました。翌昭和16年（1941年）には、境内の拡張工事が行われるとともに、神様にお供え物をする幣殿や、参拝者が拝礼を行う拝殿の造営が完成しました。これにより、神社の社殿はより整備された形となりました。

現在の社殿は歴史を感じさせる古建築であり、集落の長い歴史を見守ってきました。時代の経過とともに劣化が進むこともありますが、昭和54年（1984年）には屋根の大規模な修理が施され、その歴史的な価値を保つ努力が続けられています。

地域の行事として、春と秋には賑やかな祭礼が催されます。春の祭礼は毎年5月4日に、秋の祭礼は9月29日に行われ、集落の人々が集まり、神恩に感謝し、地域の安寧を祈願します。

市指定文化財「石抱きケヤキ」

阿別当神明宮の境内で、特に目を引く存在が「石抱きケヤキ」と呼ばれる複数のケヤキの木です。これらは社殿の西側に広がる岩盤の上に生育しています。この岩盤上に一本のケヤキが力強く根を張り、その北側には、一本のケヤキと根の一部を共有する形でさらに二本のケヤキが立っています。合計で三本のケヤキがこの地に根付いていることになります。

それぞれの木のサイズは異なり、谷側に位置する一番大きなケヤキは、根元の周囲が5.6メートル、目の高さ（目通り）の幹の直径が3.5メートルです。他の二本のケヤキは、それぞれ目通りの直径が1.9メートルと1.2メートルとなっています。

これらのケヤキ、特に岩盤上に根を張る一本の正確な樹齢を知ることは困難です。しかし、岩盤上という厳しい環境下では、地面から直接養分を吸収することが難しいため、木の成長は非常に緩やかになります。このことから、幹の太さが同程度の他のケヤキと比較しても、格段に古い樹齢であると推測されています。

その推定樹齢の古さから、この石抱きケヤキは旧利賀村地域内に現存するケヤキの木の中でも、最も古いものの一つと考えられています。地域にとって歴史的、自然的な宝として認識されており、南砺市によって文化財に指定され、保護されています。このケヤキは、阿別当神明宮の歴史と共に、集落の移り変わりを静かに見守り続けているのです。

これらの情報から、阿別当神明宮は単なる地域の神社としてだけでなく、その歴史的変遷、そして境内に佇む象徴的な石抱きケヤキによって、南砺市旧利賀村地域の文化と自然の重要な一部を成していることが分かります。春と秋の祭礼は、今も地域の絆を深める大切な機会となっています。

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