阿部志郎

阿部 志郎（あべ しろう）は、1926年（大正15年）2月1日に生まれ、日本の社会福祉分野において実践家、教育者として顕著な足跡を残しました。その活動は多岐にわたり、学校法人や学会の要職を歴任し、地域社会における福祉の向上に深く関わりました。

東京に生を受けた阿部氏は、青山学院中等部、明治学院専門学校を経て、1949年（昭和24年）に東京商科大学（現在の一橋大学）を卒業しました。同年、卒業と同時に母校である明治学院大学に勤務し、後に助教授として教育に携わりました。1950年（昭和25年）から2年間は米国ユニオン神学校に留学し、見識を深めています。

彼の社会福祉実践における重要な拠点の一つが、社会福祉法人横須賀基督教社会館です。1957年（昭和33年）に理事および館長に就任して以来、地域に根差した福祉活動を精力的に推進しました。また、教育機関の運営にも深く関わり、1985年（昭和60年）から2002年（平成14年）まで学校法人横須賀学院の理事長を務めました。

学術分野でも指導的な役割を果たしました。日本社会福祉学会や日本キリスト教社会福祉学会の会長として、社会福祉学の発展に貢献しました。さらに、中央社会福祉審議会では委員長職務代理を務め、国の福祉政策にも提言を行いました。神奈川県立保健福祉大学の学長を務めた後、名誉学長の称号を得ています。

阿部氏の人物像を語る上で欠かせないのが、地域福祉、特に在日外国人福祉への深いコミットメントです。地域社会を研究する中で、地域住民一人ひとりのウェルビーイングを実現するための福祉のあり方を追求しました。とりわけ、在日朝鮮人の福祉事業には強い信念を持って取り組みました。これは、日本が過去に韓国に対して行った武力侵略と同化政策という二つの罪がある、との歴史認識に基づいています。名前や文字の使用を強要された人々への償いとしての活動は、韓国国内でも「良心的日本人」として高く評価されています。

その思想と実践は多くの著書として結実しています。『地域福祉の思想と実践』、『トインビーホールの100年』、『福祉の心』、『ボランタリズム』、『福祉実践への架橋』、『福祉の哲学』などがあり、社会福祉関係者や研究者に広く読まれています。また、自身の人生を振り返る自伝「わが人生」が神奈川新聞に連載されたほか、大内和彦氏による伝記『福祉の伝道者 阿部志郎』も刊行されています。1996年頃には放送大学の特別講義「地域福祉の原点」に出演し、映像を通してその考えを伝えました。

長年にわたる社会福祉分野への功績が認められ、2004年にはキリスト教功労者に選ばれています。また、2017年（平成29年）には青山学院大学から名誉博士号が授与されました。阿部志郎氏は、教育、学術、そして現場での実践を通して、日本の社会福祉の発展に多大な影響を与えた人物として記憶されています。

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