降誕教会

ベツレヘムの降誕教会：イエス・キリストの誕生の地と、その歴史と政治的背景

パレスチナ自治区のベツレヘムにある降誕教会は、キリスト教において極めて重要な聖地です。イエス・キリストが誕生したとされる洞窟の上に建てられたこの教会は、ローマ・カトリック教会、東方正教会、アルメニア使徒教会の3つのキリスト教派が共同で所有・管理するという、特異な歴史的背景を持っています。毎年クリスマスには世界中から多くの巡礼者が訪れ、荘厳なミサが執り行われます。

建造から現代までの歴史

降誕教会の起源は、4世紀初頭、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世の時代にまで遡ります。イエス・キリストの誕生の地とされる洞窟の上に、最初の聖堂が建設され、339年に完成しました。しかし、6世紀に発生した大火災により、聖堂の大部分は焼失し、モザイクの床の一部が残るのみとなりました。その後、ユスティニアヌス1世によって再建され、その際に建設されたものが、現在私たちが目にする教会の基礎となっています。

教会の隣には、1882年にローマ・カトリック教会（フランシスコ会）によって聖カタリナ教会が建設されました。現代的な建物に改築されたこの教会では、毎年12月25日のクリスマスミサが全世界に向けてテレビ中継され、世界中の信徒にとって重要な行事となっています。

2002年には、パレスチナのゲリラ組織が教会に立てこもり、イスラエル軍が包囲するという国際的な事件が発生しました。約1ヶ月にわたる包囲は、教会内部に閉じ込められたゲリラと聖職者たちに深刻な食糧・水不足をもたらし、世界的な問題となりました。

ユネスコ世界遺産登録：政治的対立と国際的な協力

2012年、降誕教会を含む関連資産群は、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。しかし、この登録は、パレスチナがユネスコに加盟した直後というタイミングや、「危機にさらされている世界遺産」というカテゴリーでの申請であったため、政治的な対立を伴う複雑な道のりを経ています。

特に、アメリカ合衆国とイスラエルはパレスチナのユネスコ加盟に強く反発しており、世界遺産登録についても反対の立場をとっていました。ユネスコの諮問機関であるICOMOSも、緊急の保護を要する状況ではないとして、登録に否定的でした。

にもかかわらず、ロシアでの世界遺産委員会において、秘密投票の結果、3分の2以上の賛成票を獲得し、世界遺産登録が承認されました。これはパレスチナにとって最初の世界遺産登録であり、ベツレヘムの地と教会の主権がパレスチナにあることを国際的に認めた象徴的な出来事となりました。一方で、アメリカ合衆国は、パレスチナへのユネスコ分担金拠出を停止しており、この決定はアメリカ合衆国のユネスコ離れを加速させる要因の一つとなりました。

なお、降誕教会は2019年に「危機にさらされている世界遺産」リストから削除されました。

登録資産と基準

世界遺産に登録されたのは、降誕教会そのものに加え、アレクサンドリアの聖カタリナ教会、フランシスコ会・アルメニア使徒教会・ギリシア正教会の各修道院、教会に隣接する庭園の遺構、そしてエルサレムからベツレヘムに至る巡礼路の一部など、多岐にわたる資産群です。

登録基準としては、「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」と「顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの」の2つが満たされていると判断されました。

今後の課題

降誕教会は、宗教的な聖地であると同時に、歴史的、文化的に重要な世界遺産でもあります。今後も、その保存と保護、そして、政治的・宗教的な対立を超えた国際的な協力によって、この貴重な遺産が未来へと継承されていくことが求められています。

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