限定救命艇手

限定救命艇手（げんていきゅうめいていしゅ）

限定救命艇手とは、船舶に備え付けられている膨張式救命いかだの操作や取り扱いに関する専門的な知識と技能を有することを証明する日本の国家資格、またはその資格を取得した者を指します。この資格は、船舶の緊急時に乗船者の安全確保に不可欠な救命設備の適切な使用を担う重要な役割を果たします。

役割と業務範囲

限定救命艇手は、主に日本国内を航行する船舶において、非常時に使用される膨張式救命いかだの操作と管理に特化した業務を行います。救命いかだは、船舶の沈没や火災などの緊急事態が発生した際に、乗船員や旅客が安全に避難するための重要な救命設備です。限定救命艇手は、こうした状況下で冷静かつ的確に救命いかだを展開し、乗船者を誘導する責任を負います。この資格は、膨張式救命いかだの取り扱いに限定されており、通常の救命艇手資格とは異なり、一般的な救命艇全般の操作には対応していません。

資格取得について

限定救命艇手の資格を取得するためには、国土交通省が指定または委託した機関で実施される「限定救命艇手講習」を修了する必要があります。

講習について

講習は通常3日間の日程で行われます。この講習では、後述する筆記および実技の科目を集中的に学びます。講習を修了することが資格取得の第一歩となります。

受講資格と資格取得要件

限定救命艇手講習の受講自体は、特別な前提条件なく誰でも申し込むことが可能です。しかし、講習を修了した上で実際に限定救命艇手として資格証の交付を受け、業務に就くためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

年齢が18歳以上であること。
有効な健康証明書を所持していること。
船舶に乗り組んで、船員として6ヶ月以上の乗船履歴を有していること。

これらの要件を満たすことで、講習修了者は限定救命艇手として認められ、資格に基づいた業務に従事できるようになります。

講習の内容

限定救命艇手講習では、緊急時の対応能力を高めるための幅広い知識と実践的な技能が習得されます。講習科目は筆記と実技に分かれています。

筆記試験科目

筆記試験では、船舶や船員に関する基礎知識、緊急時の手順、関連法規など、限定救命艇手として必要な理論的知識が問われます。

船員としての一般的な知識
非常時の操練に関する知識
旅客の安全な誘導に関する知識
膨張式救命いかだ、その他の救命設備、および信号装置に関する専門知識
船員法をはじめとする、船員の安全確保および衛生管理に関する関連法令

実技試験科目

実技試験では、実際に救命設備を操作する技能が評価されます。緊急時に求められる迅速かつ正確な操作を習得します。

救命器具全般および信号装置の適切な取扱方法
膨張式救命いかだの展張（ふくらませて展開する）や操作に関する取扱方法
* 膨張式救命いかだに備え付けられている艤装品（非常食料、医療品、通信機器など）の取扱方法

これらの筆記・実技両面の学習を通じて、限定救命艇手は緊急時においても適切に膨張式救命いかだを活用し、人命救助に貢献できる能力を身につけます。

関連情報

限定救命艇手の資格や業務は、船員の労働条件や安全基準などを定めた「船員法」と密接に関連しています。また、より広範な救命設備（一般的な救命艇を含む）の操作を担う「救命艇手」資格は、限定救命艇手の上位または関連する資格として位置づけられます。

限定救命艇手は、日本の海運における安全体制の一翼を担う重要な専門職と言えるでしょう。

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