院庁

院庁（いんのちょう）とは

院庁とは、日本の古代から中世にかけて、院政を敷いた上皇や女院に直属し、彼らの所務や雑務を処理した機関です。院司が実務を担当しました。

院政における院庁

平安時代前期から上皇を院号で呼ぶことが一般的になり、院と呼ばれた上皇の家政機関として、院庁が設けられました。当初は他の皇族や有力貴族と同様の家政機関でしたが、平安時代後期に白河上皇が院政を開始すると、院庁は政治的な意味合いを強めていきます。

院政下において、院庁は治天の君（ фактический монарх）の政治的意思を表明・具現化する重要な政務機関へと変貌しました。院庁が発給する院庁下文・院庁牒・院宣は、政治的意思を実現するための手段となり、従来の太政官に代わって重要な役割を担うようになりました。当初は上皇の家政機関を意味するのみでしたが、次第に治天の政務機関全般を指す言葉として用いられるようになります（広義の院庁）。

白河院の時代には、院庁の人事も当初は摂政藤原師実に委ねられていましたが、後に院自身が任命するようになります。

院庁には院司が所属し、実務能力に長けた受領経験者など、中流貴族が任命されました。これにより、摂関家を中心とする上流貴族の政治的影響力が低下し、院司の中から、治天の側近として権勢を振るう者も現れました。彼らは「院の近臣」と呼ばれ、院庁の構成員ではありませんでしたが、政治的意思決定に深く関与し、広義の院庁を形成したと言えるでしょう。また、院庁の警備を名目として、北面武士と西面武士が置かれ、治天は独自の軍事力を保持することになりました。

院庁は、白河院から後鳥羽院の院政最盛期を経て、室町時代前期に院政が実質を失うまで、朝廷（中央政府）の重要な政務機関として機能し続けました。

女院の院庁

平安時代中期に女院の制度が確立すると、上皇に倣い、女院の家政機関である院庁が置かれるようになりました。平安時代後期に院政が開始されると、治天の君へ多数の荘園が寄進され、治天は女院へ莫大な荘園群を相続させました。これらの荘園群の運営管理を実際に行ったのが、女院の院庁（女院庁）です。女院領荘園に関する案件を中心に、女院庁からも院庁下文・院宣が発給されました。

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