陣内秀信

陣内 秀信（じんない ひでのぶ）氏は、1947年10月7日生まれの日本の建築史家です。イタリア建築・都市史を主たる専門分野としつつ、その研究対象はイスラム圏を含む地中海全域に及び、さらに日本の首都である東京の都市構造や歴史についても深く考察しています。工学博士（東京大学）の学位を持ち、長年にわたり法政大学で教鞭を執った後、名誉教授の称号を得ています。

氏の学問的キャリアは、故郷である福岡県北九州市に始まり、東京大学工学部建築学科を1971年に卒業したことから本格化しました。卒業後、1973年から2年間にわたりイタリア政府給費留学生としてヴェネツィア建築大学で学び、続く1976年にはユネスコのローマ・センターに留学するなど、イタリアを中心としたヨーロッパで研鑽を積みました。帰国後の1980年に東京大学大学院工学系研究科博士課程を単位取得退学し、1983年には同大学より工学博士号を取得しています。

教育・研究者としてのキャリアは、1980年に東京大学工学部助手としてスタートしました。1982年には法政大学工学部建築学科助教授に就任し、その後、1990年に法政大学デザイン工学部建築学科教授、2007年にはデザイン工学部教授へと昇進しました。法政大学では、大学院エコ地域デザイン研究所長、エコ地域デザイン研究センター長、江戸東京研究センター長といった要職も歴任しました。2018年に定年を迎え、名誉教授として現在に至ります。大学外でも、特定非営利活動法人歴史建築保存再生研究所の理事や、中央区立郷土天文館（タイムドーム明石）の館長を務めるなど、幅広い活動を展開しています。

陣内氏の研究は、単に歴史的事実を追うだけでなく、都市とそこに暮らす人々の関係性や、都市が持つ独特の「精神」や「コンテクスト」を読み解くことに重きを置いています。特に、水の都として知られるヴェネツィアの研究は氏のライフワークの一つであり、その知見を活かして、江戸や近代以前の東京が実は豊かな水辺の文化を持つ都市であったことを論じた『東京の空間人類学』（1985年）は、サントリー学芸賞（社会・風俗部門）を受賞するなど、高い評価を得ました。この著作を通じて、氏は東京という都市を従来の陸域中心の視点だけでなく、水辺からの視点も加えることで、その多層的な魅力を明らかにしたのです。

多数の著作も氏の研究成果を示すものです。単著だけでも、『都市のルネサンス』『イタリア都市再生の論理』といった初期の著作から、『ヴェネツィア――都市のコンテクストを読む』『イタリア海洋都市の精神』『水都東京』など、イタリアや地中海、そして東京に関する専門的な研究書や一般向けの解説書を多数発表しています。共著、編著、共編著も多く、他の研究者との共同研究や、研究室全体での調査・成果を取りまとめた書籍も少なくありません。

また、研究室の枠を超えた活動も精力的に行っており、雑誌『東京人』の編集委員を務めたり、中央区観光検定の監修・会長を務めたりするなど、専門知識の社会還元にも尽力しています。NHKの「人間講座」で講師を務めたり、人気番組「ブラタモリ」に複数回出演したりするなど、メディアを通じて広く一般に都市や建築の魅力を伝える活動も行っています。これらの活動は、建築史や都市史という専門分野の魅力を多くの人々に伝える上で大きな役割を果たしています。

陣内秀信氏は、イタリアと東京という二つの都市を深く掘り下げ、それぞれの歴史や文化、人間との関係性を独自の視点で読み解くことで、日本の建築史・都市史研究に多大な貢献を続けている研究者です。その研究成果は、多くの著作として結実し、また教育や社会活動を通じて次世代に継承されています。

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