陰獣

陰獣（いんじゅう）

江戸川乱歩が著した『陰獣』は、1928年に発表された推理中編小説で、雑誌『新青年』に連載されました。この作品は、乱歩自身の文壇復帰を象徴するものであり、彼の代表作の一つとされています。内容は、探偵作家を主人公とした物語であり、ミステリー要素と人間ドラマが融合した作品です。

作品の背景

乱歩は、長編『一寸法師』の執筆を終えた後、自己嫌悪に陥り、約14か月間の放浪の旅に出ました。その後に執筆されたのがこの『陰獣』でした。作品は、当時『新青年』の編集長であった横溝正史のサポートを受け、盛大に復活を遂げます。物語に登場する探偵作家たちは、乱歩自身や当時の人気作家たちをモデルにしており、それが作品にユニークな深みを与えています。

タイトルの由来

「陰獣」というタイトルは、乱歩によると、猫のように静かだがどこか不気味な存在を指しているとされます。しかし、発表直後から「淫獣」と誤解されることが多く、これが様々な変態犯罪の報道に使われたため、乱歩はそれに対して不快感を示していました。これは作品の受容に影響を与え、作家としての彼の評価にも関わる問題となりました。

あらすじ

物語は、探偵小説家の寒川が主人公です。彼は上野の帝室博物館で、実業家小山田六郎の妻、静子と出会います。静子は彼に、元恋人である謎の探偵作家大江春泥から脅迫されていると告白します。寒川は、静子に惹かれる一方で、春泥の謎めいた魅力に興味を持つようになります。

静子の夫・六郎が死体で発見されると、事件は急展開を迎えます。寒川は春泥の行方を追う中で、思いもよらぬ真実に直面することになります。

登場人物

• - 寒川（さむかわ）: 本作の語り手で、明るくて常識的な探偵作家。モデルは甲賀三郎。
• - 小山田静子（おやまだ しずこ）: 六郎の妻で、寒川に助けを求める。
• - 小山田六郎（おやまだ ろくろう）: 静子の夫で、合資会社の出資社員。年齢よりも老けて見える。
• - 大江春泥（おおえ しゅんでい）: 本名は平田一郎。謎多き探偵作家で、過去に静子と付き合っていたが恨みを持つ。乱歩自身がモデル。
• - 本田（ほんだ）: 寒川の友人で起こる事件をサポートする。
• - 糸崎（いとざき）: 検事で、事件の捜査を担当している。

結末と印刷の経過

『陰獣』は当初、曖昧な結末として批判を受け、その後の再録時には結末が明確にされました。しかし、後に再録される際には元の形に戻されました。作品は幅広い層から受け入れられ、1987年には、春陽文庫から再版され、これまでに22刷、約9万5000部が発行される人気作となりました。

映像化と影響

『陰獣』は映画やドラマとしても映像化され、多くの人々に知られるようになりました。乱歩の作品は日本の推理小説の礎となり、その後の作家たちにも大きな影響を与えています。特に『陰獣』は、ミステリー小説の典型として、今なお愛され続ける作品です。

このように、江戸川乱歩の『陰獣』は、彼の文壇復帰を果たした名作であり、日本の文学史に多大な影響を与えた作品として、幅広い読者に支持されています。

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