陳遇 (明)

陳遇（ちん ぐう）は、生年は不明ですが、1384年に没した元末明初の学者です。字（あざな）は中行（ちゅうこう）といい、その学識の高さで知られています。

生涯

陳遇の祖先は曹州（そうしゅう）の出身でしたが、高祖父の代から建康（けんこう）に移り住んでいました。彼は幼い頃から学問に励み、特に『易経』の象数（しょうすう）の学に深く通じていました。元末には温州（おんしゅう）の教授となりましたが、間もなく官を辞し、故郷に帰って隠棲しました。学者たちの間では、「静誠先生」と呼ばれ、その人となりを尊敬されていました。

朱元璋が長江を渡ると、秦従龍（しんじゅうりゅう）という人物が、陳遇を古代の賢人である伊尹（いいん）、呂尚（りょしょう）、諸葛亮（しょかつりょう）になぞらえて推薦しました。その結果、陳遇は朱元璋に召し出されることになります。朱元璋は陳遇と語り合い、その見識に大いに喜び、重要な政策決定の場にも参加させ、深く信頼しました。朱元璋が呉王（ごおう）となると、陳遇は供奉司丞（ぐぶしじょう）に任じられましたが、これを辞退しました。

朱元璋が皇帝として即位し、洪武帝（こうぶてい）となると、陳遇は三度にわたって翰林学士（かんりんがくし）に任じられましたが、いずれも辞退しました。1370年（洪武3年）、洪武帝は陳遇に浙江（せっこう）の民情視察を命じました。任務を終え南京に戻ると、中書左丞（ちゅうしょさしょう）に任命されましたが、これもまた辞退しました。翌年、華蓋殿（かがいでん）に召し出され、「平西詔（へいせいしょう）」の起草を命じられました。その後、礼部侍郎（れいぶじろう）に任じられ、弘文館大学士（こうぶんかんだいがくし）を兼任しましたが、これも辞退しました。

西域から良馬が献上されると、陳遇は漢の故事を引き合いに出して洪武帝を諫めました。その後も、太常寺少卿（たいじょうじしょうきょう）に任じられましたが、これも固辞。最終的には礼部尚書（れいぶしょうしょ）に任命されましたが、これもやはり固く断りました。陳遇が官位を拒み続けたため、洪武帝は彼の息子を官吏にしようとしましたが、陳遇は「私の三人の息子はまだ幼く、学問も未熟ですので、将来に期待してください」と答えました。洪武帝はこれ以上、強いることはありませんでした。

明の建国に際して、陳遇は洪武帝の側近として仕えました。洪武帝が国家安泰のための策を問うと、陳遇は「殺人を抑制し、税を軽くし、賢者を登用し、先王の礼楽を復興させることが重要である」と答えました。また、廷臣に過失があって洪武帝が叱責すると、陳遇は彼らの弁護に尽力し、その多くが許されました。

陳遇の多くの計略は秘密にされ、伝わっていない部分が多いですが、洪武帝からの寵愛は非常に厚く、勲功ある大臣たちも及ばなかったと言われています。洪武帝はしばしば陳遇の邸宅に行幸し、話をする際には必ず「先生」と敬称をつけたり、「君子」と呼んだりしていました。

1384年（洪武17年）、陳遇は亡くなり、鍾山（しょうざん）に埋葬されました。彼の息子である陳恭（ちんきょう）は、父とは異なり官吏の道を歩み、工部尚書（こうぶしょうしょ）にまで上り詰め、その有能さで知られています。

陳遇は、その卓越した学識と人格によって、明朝の建国期に重要な役割を果たした人物として、歴史に名を残しています。

参考文献

• - 『明史』巻135 列伝第23

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