秦従龍

秦従龍（しん しょうりょう）は、元朝末期の激動期に生きた官僚であり、その生涯は波乱に満ちていました。字は元之といい、河南府洛陽県を本貫としていました。彼は1296年に生まれ、1365年に70歳で亡くなっています。

秦従龍は元朝に仕え、江南行台侍御史という要職を務めました。しかし、元朝末期の混乱が激化する中、彼は戦乱を避けて鎮江へと移り住みました。この地で静かに暮らしていた彼の運命は、新たな局面を迎えます。

1356年、徐達が鎮江を陥落させると、秦従龍の名声は朱元璋の耳に届きました。朱元璋は徐達に命じ、秦従龍を自らのもとに迎え入れました。朱元璋は、秦従龍を深く尊敬し、朱文正や李文忠に命じて秦従龍に豪華な贈り物をさせ、さらに彼のために住居まで用意しました。秦従龍は妻の陳氏と共に朱元璋のもとに赴き、朱元璋自ら龍江で彼らを出迎えました。

当時、朱元璋は富豪の家に身を寄せていましたが、秦従龍をそこに迎え入れ、朝晩となく時事について語り合いました。朱元璋は元の御史台を府として使い、秦従龍を西華門の外に住まわせ、大小の事柄を秦従龍と相談して決定しました。秦従龍は漆塗りの簡に筆で細密に意見を書き記し、朱元璋と問答を繰り返しましたが、その内容はあまりにも詳細であったため、側近たちには解読することができませんでした。

秦従龍の誕生日には、朱元璋と朱標が手厚い贈り物をし、秦従龍の家を訪れて共に酒を酌み交わしました。これは朱元璋が秦従龍をどれほど信頼し、敬愛していたかを物語るエピソードと言えるでしょう。

1365年冬、秦従龍の息子である秦沢が亡くなると、秦従龍は故郷へ帰ることを願い出ました。朱元璋はこれを許し、自ら郊外まで見送りに赴き、握手を交わして別れを惜しみました。しかし、その直後に秦従龍は病に倒れ、短い間に亡くなりました。

秦従龍の生涯は、元朝末期の混乱と、明朝の創設者である朱元璋との出会いによって彩られました。彼は単なる官僚としてだけでなく、朱元璋の重要な相談相手として、その政治的な判断に深く関与した人物として、歴史に名を刻んでいます。彼の知恵と洞察力は、朱元璋の天下統一を支える重要な要素の一つであったと言えるでしょう。

秦従龍に関する記述は、『明史』巻135 列伝第23に詳細に記録されており、彼の生涯や業績について知ることができます。彼の人生は、激動の時代における一人の官僚の生き様を示すとともに、朱元璋という傑出した人物との出会いが、いかに歴史を動かす力となりうるのかを教えてくれるでしょう。

もう一度検索