陵戸

陵戸（りょうこ）とは

陵戸とは、日本の律令制における身分制度「良賤制」において、賤民（五色の賤）の一つに位置づけられた人々を指します。主な役割は、天皇や皇族の陵墓の守衛でした。

起源と変遷

陵戸の起源は明確ではありませんが、『日本書紀』には仁徳天皇の時代に日本武尊の陵墓に陵守が置かれたという記述があります。ただし、これは説話であり、当時の実態を反映しているかは不明です。

陵墓管理に関する最初の規定は、持統天皇5年（691年）に定められました。この規定では、天皇陵には5戸、その他の王の墓には3戸の陵守を置き、陵墓の守衛と清掃に当たらせることとしました。また、世襲される常陵守は84戸、欠員を補充するための借陵守は150戸存在したとされています。

養老2年（718年）に養老律令が制定されると、陵守は陵戸と改称され、諸陵寮の管理下に置かれ、賤民として扱われることとなりました。陵戸は戸を形成し、良民と同等の口分田を支給され、課役を免除される一方で、婚姻は陵戸同士に限定されるなど、厳しい身分統制下に置かれました。

陵戸の役割と祭祀

陵戸の主な職務は、日常的な陵墓の管理であり、祭祀は朝廷から派遣される「荷前使」（のさきのつかい）が執り行っていました。しかし、9世紀頃になると、官人の間で触穢思想が高まり、荷前使の派遣が滞るようになり、陵戸が祭祀にも携わるようになりました。

陵戸が賤民とされた理由

陵戸が賤民とされた理由としては、触穢思想が挙げられることがあります。しかし、触穢思想は古代において上級官人層に浸透したものであり、一般には広まっていなかったという説もあります。実際、陵戸の欠員を良民から一時的に補充する制度も存在しており、この制度に対する良民側の抵抗の記録もないことから、陵戸が賤民とされたのは、律令制を導入する際にモデルとした唐の制度の影響が大きいと考えられています。

唐では、既に陵墓の守衛に良民を当てるように変更されていましたが、日本では、陵墓の守衛をより厳重に行うため、身分管理が容易な賤民を当てるという規定が維持されました。

律令制の崩壊と陵戸のその後

律令制が崩壊し、貴族の荘園支配が台頭するにつれて、陵戸制度も形骸化していきました。しかし、一部では特定の陵墓の維持管理に携わる人々が部落を形成し、明治時代までその役割を担っていた例も見られます。

まとめ

陵戸は、律令制下の身分制度において、陵墓の守衛という重要な役割を担った人々です。時代とともにその役割や社会的地位は変化しましたが、日本の歴史の中で重要な存在であったことは確かです。陵戸の歴史を理解することは、古代日本の社会構造や人々の生活を深く知る上で不可欠と言えるでしょう。

参考文献

神野清一『卑賤観の系譜』 8巻、吉川弘文館、1997年2月1日。

関連項目

律令制
良賤法
洞部落

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