陶山鈍翁

陶山鈍翁：対馬藩を救った儒学者

陶山鈍翁（すやま どんおう）は、明暦3年（1658年）に対馬で生まれ、享保17年（1732年）に没した江戸時代中期の儒学者です。本名は存（ながろう）、字は士道、通称は庄右衛門、別号は訥庵（とつあん）といいました。彼は対馬藩の農業振興に大きく貢献し、多くの農書を著しました。

生涯

鈍翁は、対馬藩の儒医である陶山玄育の子として生まれました。11歳で木下順庵の門下に入り、学問と実践の合一を学びました。帰郷後は、元禄12年（1699年）に第3代藩主宗義真の下で対馬藩郡奉行に就任し、藩政に携わります。

イノシシ全滅作戦

鈍翁の最大の功績は、対馬の農作物をイノシシの害から守るために行ったイノシシの全滅計画です。当時、対馬ではイノシシによる農作物への被害が深刻でした。そこで鈍翁は、「猪鹿追詰（いじかおいつめ）」と呼ばれる作戦を立案し、実行しました。

この作戦は、対馬全島を9つの区域に分け、柵を設けて1区ずつイノシシを追い詰めて全滅させるというものでした。宝永6年（1709年）には、この作戦によって対馬全島のイノシシの全滅に成功しました。

この作戦が実行された当時は、江戸幕府第5代将軍徳川綱吉による生類憐れみの令が出されていた時期でした。そのため、動物を殺すことは禁じられていましたが、鈍翁は領民を救うため、死を覚悟でこの作戦を実行したと伝えられています。

対馬聖人

イノシシの全滅作戦の成功により、対馬の農業は大きく改善されました。領民たちは鈍翁の功績を称え、彼を「対馬聖人」と崇めました。

大正13年（1924年）には、その功績が認められ、正五位が追贈されました。

顕彰碑

鈍翁の生地である佐護郷の郷民は、儒者雨森芳洲に依頼し、彼の功績を記した碑を建てたと伝えられています。この碑は、現在も佐護地区に存在し、彼の功績を今に伝えています。

著書

鈍翁は、学者としても多くの著作を残しました。主な著書には、以下のようなものがあります。

『春秋大義』12巻
『老農類語』3巻
『通鑑綱目大義』32巻
『艮止説』2巻
『財用問答』2巻
『水利問答』
* 『訥庵雜録』6巻

これらの著書は、彼の学問的な知識や思想を知る上で貴重な資料となっています。

まとめ

陶山鈍翁は、対馬藩の農業振興に尽力し、イノシシの全滅作戦を成功させたことで知られる儒学者です。彼は、領民のために自らの命を懸けて行動し、その功績から「対馬聖人」と称えられました。彼の生涯は、困難な状況においても、信念を持って行動することの重要性を教えてくれます。

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