木下順庵

木下順庵

木下順庵（きのした じゅんあん）は、江戸時代前期に活躍した儒学者です。元和7年（1621年）に京都で生まれ、元禄11年（1699年）に江戸で没しました。幼名は平之允、諱は貞幹、字は直夫といい、順庵、錦里、敏慎斎、薔薇洞などの号を用いました。没後、恭靖という諡号が贈られています。

生涯

順庵は、京都の商家に生まれ、幼い頃から神童と称されるほどの才能を持っていました。当初、僧の天海からその才能を見込まれ、後継者として期待されましたが、最終的には藤原惺窩の高弟である松永尺五に師事し、儒学の道に進むことを選びました。一時、柳生宗矩に従って江戸に出たこともありましたが、その後帰洛し、加賀藩主の前田利常に仕えました。

天和2年（1682年）には、江戸幕府に儒官として仕えるようになり、五代将軍徳川綱吉の侍講を務めました。この間、『武徳大成記』などの幕府編纂事業にも携わり、林鳳岡をはじめとする林門の儒学者たちとも交流を深めました。順庵の学問は、朱子学を基本としながらも、古学にも傾倒するという柔軟な姿勢を持っていました。

教育者としても非常に優れており、新井白石や室鳩巣など、後に名を成す多くの人材を育てました。特に、元禄6年（1693年）に甲府藩主徳川綱豊（後の将軍徳川家宣）の儒学者を探していた高力忠弘に対し、順庵は自らの門下生である新井白石を推薦したことは、彼の教育者としての卓越した能力を示すエピソードとして知られています。

順庵は、元禄11年（1698年）に江戸でその生涯を閉じました。墓は東京都大田区の妙雲寺にあります。

学問と思想

順庵の学問は、朱子学を基本としながらも、古学の思想も積極的に取り入れた折衷的なものでした。彼は、単に古典を鵜呑みにするのではなく、自らの考察に基づいた解釈を重視し、常に学問の深化を求めていました。その姿勢は、多くの門下生に影響を与え、彼らが後に独自の学問を築く上で大きな礎となりました。

著書

順庵は、多くの著作を後世に残しました。代表的なものとしては、『錦里文集（十巻）』や『班荊集（二巻）』などがあります。これらの著作は、彼の学識の深さを示すとともに、当時の思想や文化を理解する上で貴重な資料となっています。

木門十哲

順庵の門下生の中でも特に優れた十人は、「木門十哲」と呼ばれています。彼らは、それぞれが異なる分野で活躍し、江戸時代の社会や文化に大きな影響を与えました。

新井白石: 将軍徳川家宣に仕え、幕政に参与しました。
室鳩巣: 加賀前田家に仕え、後に将軍徳川吉宗の侍講となりました。
雨森芳洲: 対馬藩に仕えて、文教や外交に活躍しました。
祇園南海: 紀伊藩の儒者として活躍しました。
榊原篁洲: 紀伊藩の儒者として活躍しました。
南部南山: 富山藩に仕えました。
松浦霞沼: 雨森芳洲とともに、対馬藩に仕えました。
三宅観瀾: 徳川光圀に招かれ、『大日本史』の編纂に協力しました。
服部寛斎: 甲斐府中藩主徳川綱豊（後の将軍家宣）の侍講を務めました。
向井滄洲

まとめ

木下順庵は、江戸時代前期を代表する儒学者の一人であり、その学識の深さと教育者としての才能は、後世に大きな影響を与えました。彼の残した功績は、今日においても高く評価されています。

参考文献

小田襄『国立国会図書館デジタルコレクション 国史教科書中の主要人物伝』イリカワ本店、1925年。
『寛政重修諸家譜』巻第千三百五十七「木下」（国会図書館デジタルコレクション：国民図書版第8輯）

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