陽子線

陽子線とは

陽子線とは、水素の原子核である陽子を加速してできた放射線の一種です。陽子線は、線形加速器、サイクロトロン、シンクロトロンなどの加速器を用いて生成され、そのエネルギーに応じて様々な分野で活用されています。

陽子線の特徴

陽子線の最大の特徴は、物質中をある深さまで進むと、その手前でエネルギーの付与が急激に大きくなるという性質です。この現象は「ブラッグカーブ」と呼ばれ、エネルギー付与が最大となる点を「ブラッグピーク」と呼びます。この特性を利用することで、放射線治療において、がん細胞に集中的に放射線を照射し、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることが可能となります。

陽子線の利用

陽子線は、そのエネルギーによって主に以下の用途で利用されます。

高エネルギー陽子線 (数GeV)：素粒子物理学の実験や、中性子発生源として物性研究に利用されます。
中エネルギー陽子線 (250MeV程度まで)：がん治療に利用されます。ブラッグカーブのピークを腫瘍の位置に合わせることで、腫瘍細胞に選択的に放射線を照射し、正常組織へのダメージを軽減します。強度変調放射線治療（IMRT）も腫瘍選択性の高い治療法ですが、正常組織への低線量被曝を完全に避けることはできません。そのため、陽子線治療は小児がんなど、晩期障害のリスクを低減したい場合に特に有効と考えられています。2016年の診療報酬改訂により、小児がんへの陽子線治療は公的医療保険の適用対象となりました。
低エネルギー陽子線 (数MeV)：β+崩壊を起こす放射性核種の生成に利用されます。原子炉で生成される放射性物質の多くがガンマ線を放出するのに対し、陽子線ではβ+線を放出する核種を生成できるという利点があります。

陽子線治療のメリット

陽子線治療は、従来の放射線治療と比較して、以下のようなメリットがあります。

高い線量集中性: ブラッグピークを利用することで、腫瘍にピンポイントで放射線を照射できるため、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることができます。
副作用の軽減: 正常組織への被曝を抑えることで、放射線治療に伴う副作用を軽減することができます。特に小児がんの場合、成長障害などの晩期障害のリスクを低減できると考えられています。

まとめ

陽子線は、その独特な線量分布特性から、がん治療をはじめとする様々な分野で利用が進んでいます。特に、がん治療においては、従来の放射線治療に比べて副作用を抑えつつ、高い治療効果が期待できるため、今後ますますその重要性が増していくと考えられます。

関連項目

重粒子線がん治療
* アナトーリ・ブゴルスキー

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