隠し湯

隠された湯：権力者と秘湯の歴史

日本の歴史において、温泉は単なる入浴施設を超えた存在でした。特に封建時代、温泉は権力者の特権であり、領主が独占的に利用する「隠し湯」が存在しました。これは、文字通り他者に利用させないよう隠された、いわば特別な温泉です。山間部の僻地にあるものが多かったものの、平地に近い場所にも存在しました。

戦国武将と隠し湯

最も有名な隠し湯の所有者といえば、武田信玄です。領内に数多くの温泉が存在したことから、信玄は兵士たちの療養を目的として、領内各地の温泉を積極的に活用しました。そのライバルである上杉謙信や、信玄の家臣であった真田氏もまた、多くの隠し湯を所有していたと伝えられています。

これらの武将が所有していた温泉は、今日では「信玄の隠し湯」「謙信の隠し湯」といった名称で、観光資源として活用されています。「歴史ある温泉」「秘湯」「効能の高い温泉」といったイメージと結びつき、観光宣伝文句としても頻繁に使用されています。しかし、これらの温泉の中には、泉温が低く、川岸など立地条件によって泉質の変化が起こりやすい場所も多く存在しました。2004年の温泉偽装問題においては、こうした隠し湯と呼ばれる温泉が問題となるケースも少なくありませんでした。

代表的な隠し湯

以下に、代表的な隠し湯を列挙します。太字は江戸時代以降、宿泊施設が10件以上集まる温泉街を形成した場所です。☆印は平均泉温40度未満のぬる湯、★印は平均泉温25度未満で冷鉱泉に分類される温泉を示します。

信玄の隠し湯

信玄の湯 湯村温泉（山梨県甲府市）
積翠寺温泉（山梨県甲府市）☆
下部温泉（山梨県南巨摩郡身延町）
西山温泉（山梨県南巨摩郡早川町）
赤石温泉（山梨県南巨摩郡富士川町）★
川浦温泉（山梨県山梨市）
増富温泉（山梨県北杜市）☆
岩下温泉（山梨県山梨市）☆
田野温泉（山梨県甲州市）★
嵯峨塩鉱泉（山梨県甲州市）★
松代温泉（長野県長野市、加賀井温泉とも）
白骨温泉（長野県松本市）
横谷温泉（長野県茅野市）★
渋御殿湯温泉（長野県茅野市）☆
小谷温泉（長野県北安曇郡小谷村）
渋温泉（長野県下高井郡山ノ内町）
梅ヶ島温泉（静岡県静岡市葵区）
平湯[[温泉]]（岐阜県高山市）

注目すべきは、下部温泉、西山温泉、梅ヶ島温泉です。これらの温泉は、武田氏滅亡後に当地を治めた徳川家康も利用したとされています。

謙信の隠し湯

燕温泉（新潟県妙高市）
関温泉（新潟県妙高市）
蓮華温泉（新潟県糸魚川市）
貝掛温泉（新潟県南魚沼郡湯沢町）☆
生地温泉（富山県黒部市）★
猿ヶ京温泉（群馬県利根郡みなかみ町）
奈女沢温泉（群馬県利根郡みなかみ町）

その他の隠し湯

伊香保[[温泉]]（群馬県渋川市）
別所温泉（長野県上田市）
角間温泉（長野県上田市）★
* 鹿沢温泉（群馬県吾妻郡嬬恋村）

これらの温泉は、歴史的背景や地理的条件、そして泉質など、様々な要素が複雑に絡み合って存在しています。現代においては、観光資源としての価値も高く、多くの観光客を魅了しています。しかし、その歴史と現状を理解した上で、適切な利用と保全が求められています。

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