隣組 (歌)

『隣組』：時代を超えて愛される昭和歌謡のロングセラー

『隣組』は、昭和前期に一世を風靡した日本の流行歌です。作詞を岡本一平、作曲と編曲を飯田信夫が手がけ、徳山璉が歌い、1940年（昭和15年）6月17日よりNHKラジオの『國民歌謡』で放送されました。同年10月には、北原白秋作詞、飯田信夫作曲の『天から煙草が』とのカップリングでビクターレコードから発売され、日本ビクター管絃楽団や日本ビクター合唱団、日本ビクター児童合唱団といった錚々たる面々が演奏に参加しました。

この曲は、当時の社会情勢を反映した、まさに時代の歌と言えます。昭和初期、戦時体制下で導入された隣組制度をテーマに、その利点などを歌詞に織り込み、国民への啓発を目的として制作されました。歌詞の冒頭は、日本の伝統的な家屋における玄関の引き違い戸をノックする擬音で始まり、当時の生活様式を彷彿とさせる情景が浮かび上がります。

隣組制度は戦後廃止されましたが、『隣組』の陽気で親しみやすいメロディーは、時代を超えて人々の心に響き続けました。その証拠に、戦後も様々な場面で歌われ続けているのです。例えば、NHK総合テレビの番組『お笑い三人組』の主題歌として使用されたという記録が残っています。

さらに驚くべきは、その後の『隣組』の活躍です。1971年には武田薬品工業の殺虫剤「メルトン」のCMソング、1974年からはメガネドラッグのCMソングとして使用され、その親しみやすいメロディーは幅広い世代に浸透していきました。

そして、最も有名なのは1978年から長年続いたフジテレビの人気番組『ドリフ大爆笑』のオープニングテーマへの採用でしょう。マーチ調にアレンジされたこのバージョンは、多くの人々の記憶に深く刻まれています。編曲はたかしまあきひこ氏によるものという説もあります。また、スーパーマーケットチェーンCGCグループの店内BGM「CGCソング」にも、『隣組』と歌詞の類似性が指摘されています。

近年においても、『隣組』のメロディーは様々なCMソングとしてアレンジされ、現代に蘇っています。2010年にはサントリー「トリスウイスキー」のCM（吉高由里子出演）、2017年にはドミノピザのCM（「ド・ド・ドミノの感謝祭」篇）、2022年5月からは東京ガスのCM（安田顕出演）、そして2024年8月からはエン・ジャパンのCM（草彅剛出演）など、幅広い企業の広告に起用されています。これらのCMソングは、多くが『ドリフ大爆笑』版とほぼ同じアレンジであるため、「替え歌の替え歌」という興味深い状況となっています。

アニメ映画『この世界の片隅に』では、コトリンゴによるカバーバージョンが挿入歌として使用され、新たな世代にもその魅力が伝えられました。

このように、『隣組』は戦時中の歌謡曲という枠を超え、時代を超えて愛され続けるロングセラーとして、日本の音楽史にその名を刻んでいます。その親しみやすいメロディーと、時代を反映した歌詞は、これからも多くの人々に感動と共感を呼び続けることでしょう。 時代背景や社会情勢の変化を反映しながらも、普遍的な魅力を持ち続け、人々の記憶に深く刻み込まれている『隣組』は、まさに日本の歌謡史における貴重な遺産と言えるでしょう。

もう一度検索