雁木 (広島市)

雁木（がんぎ）について

雁木は、飛び立つ雁のようにジグザグに配置された構造物であり、主に広島県広島市に見られる階段状の港湾施設や護岸を指します。これらの施設は、近世以降の舟運において水辺にアクセスしやすくするために、川の斜面に作られました。

地理的背景

広島市の旧市街地は、太田川によって形成された三角州上に広がっています。この地域には太田川本流、天満川、本川、元安川、京橋川、猿猴川の6本の川が流れています。これらの川は流れが緩やかで、幅も広く、市街地の水面の占める割合は約13%に達します。また、水質も良好で、周囲250m以内には三角州上の人口の約4割が居住しています。歴史的に「水の都」と称されるこの地は、優れた水運の拠点としても知られています。

広島湾は、最大干満差が4mと、大変大きな変動があります。これに影響されて、旧市街地の6つの川は感潮河川となっており、舟運や物資の上下が行われた記録があります。

構造と材料

雁木は元々木材で構築されていましたが、水に浸かりやすく腐りやすいため、江戸初期には石材が使用されるようになりました。多くは花崗岩が使われており、積み方は年代によって異なります。古いものでは平積み、落積み（谷積）、矢筈積みといった形式があり、目地にはモルタルが使われているものもあります。1945年の広島市への原爆投下の際に、熱線や火災による焼け焦げた跡が見られるものも多く、これらは被爆遺構として評価されています。

雁木の形式には、川に対して直角に降りる「直行型」、並行に降りる「平行型」、途中で踊場があり向きを変える「折れ曲がり型」があります。また、裏木戸付きのものや舟つなぎが設けられた雁木も存在し、町人町では見られる傾向があります。

歴史的背景

近世には、太田川水系での河川舟運が発達しました。特に、安土桃山時代に毛利輝元によって広島城が建設された際、城下町の整備とともに雁木が呼び寄せる形で造られました。この時期、舟運の管理が行われ、舟株制度によって川での物資の移動が厳密に統制されていました。

また、広島藩は湿地に城を構えるために治水対策を行い、堤防を高くするなどの施策を講じました。その一環として雁木が築かれ、物資の荷揚げや水を汲むための拠点となりました。

近代に入ると、廃藩置県に伴って舟運の規制が緩和され、個人用の雁木も増えました。しかし、1930年代からは道路の整備や車両輸送の発達によって舟運は縮小していくことになります。

現代

戦後の復興都市計画の中で、広島市は水辺空間の緑化を推進し、現在の都市計画の基礎が築かれました。水と共存する考え方が広がり、様々な水上交通手段が復活しました。雁木を利用した交通手段も開発され、現代に引き継がれています。

また、近年では雁木の調査や保存活動も高まり、文化資源としての意義が再評価されています。2005年にはNPO法人雁木組が設立され、古くからの雁木の調査と保存活動に取り組んでいます。2007年には京橋川の雁木群が土木学会選奨土木遺産に選定され、文化的価値が認識されています。

まとめ

雁木は広島市における水辺の景観や歴史、地域文化を象徴する重要な存在です。水運の拠点として、また生活の一部として機能してきた雁木は、現在でも観光や地域振興の中でその魅力を発揮しています。近代化が進む社会においても、雁木が持つ歴史的な役割を忘れずに、次世代へと引き継ぐことが求められています。

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