雨の中の慾情

『雨の中の慾情』：漫画から映画へ、つげ義春の世界観がスクリーンに

つげ義春による1981年発表の短編漫画『雨の中の慾情』。この作品は、作者が数年前から抱いていた漠然とした空想を、コマ割りにして書き留めたもので、当初は発表するつもりはなかったとされています。そのため、漫画というより絵コンテに近い表現となっており、つげ義春自身も作品とは考えていなかったと語っています。同傾向の作品として『夢の散歩』が挙げられます。

この漫画が生まれた背景には、作者が水木プロの仕事を辞めた後、自身の漫画の売上が減少していたという事情があります。当時、エロ漫画雑誌が盛んになっており、生活のためにエロ漫画を描くことを真剣に検討していた時期だったようです。実際、『入り江のざわめき』というタイトルの、エロ漫画と言えるような作品も構想し、コマ割りまで完成させていました。

未発表作品『入り江のざわめき』：エロ漫画への試行錯誤

『入り江のざわめき』は、団地に住む女性が、嫌悪感を抱く男性に強姦されるという衝撃的な物語です。女性は夫に知られることを恐れて強姦を隠しますが、後日、犯人と再会し、復讐を決意します。しかし、復讐に向かう過程で女性の心境は変化し、最終的には性行為へと至るという複雑な心理描写が特徴です。

この作品は、強姦シーンにおける細やかな描写や、女性がこたつに縛られた状態から解放されるまでのハラハラする展開など、ディテールにこだわった構成になっています。タイトルはギターの名曲から取られており、つげ義春の作品世界観の一端を垣間見ることができます。

つげ義春は、この『入り江のざわめき』をエロ漫画と考えていたものの、世間のエロ漫画に対する認識や、自身の創作における「芸術意識」との葛藤を抱えていたと語っています。彼は、自身の作品に「意識的な自分」が反映されていない点が、他の作品と異なる点だと分析しています。

『雨の中の慾情』のあらすじ：衝撃的な出会いから始まる物語

『雨の中の慾情』は、バス停で出会った青年と主婦が、突然の雷雨の中、田んぼの窪地に身を寄せ、全裸になり、性行為に及ぶという衝撃的な物語です。青年は、落雷の危険性を理由に女性の衣服を脱がせ、豪雨の中、激しい情交を繰り広げます。性行為後、2人は小川で泳ぎ、やがて雨は上がり、何事もなかったかのようにバスに乗り込みます。

この物語は、一見すると単純なエロティックな描写のようですが、つげ義春独特のシュールで不穏な雰囲気、そして、自然と人間の性、そして社会との不協和音のようなものを描いています。

映画『雨の中の慾情』：2024年公開、新たな解釈への期待

この衝撃的な漫画作品『雨の中の慾情』が、2024年11月29日に、日本と台湾の合作映画として公開されます。監督は片山慎三、主演は成田凌。台湾中部で撮影が行われ、R15+指定作品となっています。東京国際映画祭や台北金馬映画祭での先行上映を経て、公開を迎え、大きな話題となっています。

映画では、漫画の独特の世界観がどのように表現されるのか、そして、原作に描かれた複雑な心理描写がどのように映像化されるのか、多くの期待が寄せられています。漫画とは異なる解釈や表現が加わることで、原作とはまた違った魅力が生まれる可能性も秘めています。漫画と映画、それぞれの表現方法によって生まれる多様な解釈が、この作品をさらに魅力的なものにするでしょう。キャストやスタッフ陣も豪華で、原作の世界観を忠実に再現しつつ、新たな魅力を生み出すことが期待されます。

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