雲英末雄

雲英末雄：近世俳諧研究の第一人者とその学問的遺産

雲英末雄（きら すえお、1940年3月28日-2008年10月6日）は、近世俳諧研究において卓越した功績を残した日本の国文学者です。早稲田大学名誉教授の称号を持ち、その深い学識と情熱は、多くの研究者や俳諧愛好家に多大な影響を与えました。

愛知県西尾市に生まれた雲英氏は、早稲田大学文学部国文科を卒業後、同大学大学院博士課程に進学します。1972年には窪田空穂賞を受賞し、その後、愛知淑徳短期大学、大阪女子大学を経て、早稲田大学文学部に教授として着任。1985年には芸術選奨文部大臣賞を受賞するなど、華々しい経歴を歩みました。

彼の研究活動の中心は近世俳諧、特に元禄時代の俳壇にありました。1986年には学位論文『元禄京都俳壇研究』により、早稲田大学より文学博士号を取得。この論文は、元禄期の俳諧世界を詳細に分析し、新たな知見を提供する画期的な研究として高く評価されています。

雲英氏の学問的業績は、単なる論文執筆にとどまりません。彼は熱心な蒐集家としても知られており、生涯を通して収集した俳諧関連資料は膨大な量にのぼります。そのコレクションは、約2000点もの俳書を筆頭に、俳人の書簡や句稿といった貴重な史料、俳画、短冊、摺物など多岐に渡ります。さらに、和歌や連歌といった俳諧の源流を辿る資料や、近世出版文化の多様性を示す宗教、地誌、医薬関係の版本なども含まれており、近世日本の出版文化を総合的に理解するための貴重な資料群となっています。

これらの資料は、雲英氏の逝去後、早稲田大学図書館に「雲英文庫」として寄贈され、後世の研究に役立てられています。このコレクションは、単なる資料の集積というだけでなく、近世俳諧研究の新たな地平を開くための貴重な資源として、現在も多くの研究者によって活用されています。

研究活動の傍ら、雲英氏は精力的に著作活動も展開しました。『元禄京都俳壇研究』を始め、『俳書の話』『鳥は雲に 近世俳人書画逍遥』『俳書の世界』など、数多くの著書を発表。これらの著作は、彼の深い知識と独自の視点に基づいたものであり、近世俳諧研究に大きな貢献を果たしています。さらに、彼は多くの編纂・校訂にも携わっており、『貞門談林諸家句集』『おくのほそ道』『元禄京都諸家句集』といった古典作品の新編や解説を通して、古典文学の普及にも貢献しました。

2008年、急性骨髄性白血病のため68歳で逝去。しかし、彼の残した学問的遺産、そして「雲英文庫」は、日本の国文学、特に近世俳諧研究において、今後も重要な役割を果たし続けることでしょう。雲英末雄の業績は、単なる学問的成果という枠を超え、日本の文化遺産の保存と継承に大きく貢献した、稀有な存在であったと言えます。彼の研究とコレクションは、これからも多くの研究者や俳諧愛好家たちにインスピレーションを与え続け、日本の近世文学研究を豊かにするでしょう。

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