電話訴訟

電話訴訟（ダウド訴訟）とは

電話訴訟、またはダウド訴訟として知られるこの紛争は、電話の発明者として広く知られるアレクサンダー・グラハム・ベルと、革新的な発明家トーマス・エジソンとの間で繰り広げられた、電話特許を巡る法廷闘争です。この訴訟は、電話技術の黎明期における特許制度の複雑さ、そして発明の先駆者としての権利を争う過程における技術者たちの情熱と戦略を浮き彫りにしています。

電話発明の先駆者たち

電話の発明には、ベルとエジソン以外にも多くの技術者が関わっていました。1854年にはフランスのブルサールが、音声の振動を電気信号に変換するという理論を提唱しました。また、1860年にはドイツのフィリップ・ライスが、豚の腸の膜を利用した音声伝送装置を実際に製作しています。この装置は、音声を電流の断続に変換するという基本的な原理を利用しており、ベルの電話発明の先駆けとみなされています。ライスがこの装置を「Telephon」と呼んだことから、ドイツでは彼の発明とする意見もありますが、国際的には広く認められてはいません。また、ほぼ同時期にイタリアのアントニオ・メウッチも同様の音声=電流変換装置を開発しています。

特許申請と先発明主義

1876年2月14日、グラハム・ベルの弁護士が特許明細書を提出した数時間後、イライシャ・グレイも電話に関する予告記載書を提出しました。アメリカの特許法は先発明主義を採用しており、特許が付与されるのは出願日ではなく、発明が最初に完成した日となります。その結果、1876年3月7日にグラハム・ベルがアメリカ合衆国特許第174,465号を取得しました。これは、ベルが電話の発明者として公式に認められた瞬間であり、後の訴訟の重要な根拠となりました。

実用化の始まりと紛争の激化

1876年3月10日、ベルはマサチューセッツ州ボストンで、グレイが考案した液体抵抗型送話器の実験中に「ワトソン君、用事がある、ちょっと来たまえ」という言葉を伝送することに成功しました。この歴史的な一言は、電話の実用化の始まりを告げると同時に、その後の特許紛争の火種となりました。

その後、1877年4月27日、トーマス・エジソンは研究員に開発させた炭素式マイクロフォンの特許を申請しました。この炭素式マイクロフォンは、音声信号の伝送を大幅に改善するものでした。さらに、ベルの会社は、エジソンの炭素式マイクロフォンに類似した技術の特許を2週間前に取得していた技術者エミール・ベルリナーを雇い入れています。これらの出来事が、特許紛争をさらに複雑化させ、訴訟へと発展していく要因となりました。

和解と独占の時代へ

電話特許をめぐる争いは激化しましたが、1879年、最終的にはウエスタンユニオンが所有するエジソンの炭素式マイクロフォンやグレイの液体抵抗型マイクロフォンの特許をベル電話会社（AT&Tの前身）に譲渡することで和解しました。この和解条件には、ウエスタンユニオンが電話事業に進出しないこと、ベル電話会社が電信事業に進出しないこと、そしてベル電話会社が17年間、電話事業の利益の20％をウエスタンユニオンに支払うことが含まれていました。この結果、アメリカの電話事業は「ベル・システム」という独占的な体制下に入り、その後のアメリカの電話事業の発展を大きく左右することとなりました。

この電話訴訟は、技術革新、特許制度、そして企業間の競争が絡み合った複雑な歴史を物語る重要な出来事として、後世に語り継がれています。

脚注

電子情報通信学会 知識ベース14群　歴史・年表・資料 » 2編　電子情報通信年表

関連項目

電話
電話の歴史

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