青い目の人形

青い目の人形：日米友好の象徴と、失われた平和への願い

青い目の人形、それは1927年（昭和2年）にアメリカ合衆国から日本へ、両国間の親善を願って贈られた人形たちの愛称です。この記事では、人形交流の背景にあった当時の日米関係、人形に込められた平和への願い、そして日本からアメリカへ贈られた答礼人形について解説します。

日米関係の緊張と人形交流の始まり

明治時代末期、日露戦争終結によって日本が満州の権益を獲得したことで、中国進出を狙うアメリカとの間に政治的な緊張が高まりました。アメリカ国内では、日系移民の増加が経済を圧迫するという懸念や、人種差別的な偏見も重なり、排日移民法が成立。日本国内の反米感情を煽り、両国民の対立を深める一因となりました。

こうした状況を憂慮したアメリカ人宣教師シドニー・ギューリック博士は、「国際親善は子供の世代から」というスローガンを掲げ、1925年に万国児童親交会を結成。その第一事業として、1927年にアメリカの子供たちが作った人形を日本の子供たちに贈るという親善活動を計画しました。

日本の財界人、渋沢栄一もこの計画に賛同し、日本側の窓口として日本児童親善会を設立。アメリカからの人形の受け入れや、日本からの答礼人形の製作・寄贈を主導しました。

アメリカから日本へ：友情の人形

1927年3月3日のひな祭りに合わせ、12,739体の「青い目の人形」がアメリカから日本の子供たちに贈られました。人形たちは各地の小学校や幼稚園に配られ、盛大な歓迎を受けました。

人形には一体一体に名前が付けられ、パスポートや手紙が添えられていました。子供たちは人形を大切にし、学芸会や運動会などの学校行事にも参加させました。

しかし、太平洋戦争が勃発すると、アメリカは敵国となり、「青い目の人形」は敵性人形として扱われるようになります。多くが処分されましたが、中には人形を隠して守り抜いた人々もいました。

日本からアメリカへ：答礼人形

アメリカからの人形贈呈に対し、日本からも答礼として市松人形が贈られました。渋沢栄一を中心とした日本国際児童親善会の呼びかけにより、全国の子供たちから寄付を募り、58体の市松人形が製作されました。

これらの人形は「ミス日本」などの名前を冠し、アメリカ各地の博物館や美術館に寄贈され、アメリカの子供たちの歓迎を受けました。

戦争を経て、再び結ばれる友情

太平洋戦争によって中断された人形交流ですが、戦後、「青い目の人形」が再発見されたことをきっかけに、再び日米の友好を深める活動が始まりました。

現在では、346体の「青い目の人形」が現存し、日米親善と平和を語る資料として大切に保存されています。また、アメリカに贈られた答礼人形も、多くが今もアメリカの公共施設で保管されており、人形の里帰りや「新・友情人形」の寄贈などのイベントを通じて、子供同士の交流が行われています。

人形交流は、移民問題の解決に直接的な効果はありませんでしたが、戦争を挟んで文化的な交流を続ける上で重要な役割を果たしました。「青い目の人形」は、日米の友好の象徴として、今もその歴史を語り続けています。

もう一度検索