青年 (森鷗外)

青年 (せいねん)

森鷗外の長編小説『青年』は、1910年3月から翌年8月にかけて文芸雑誌「スバル」に連載されました。本作は、一人の青年が心の悩みや葛藤を経験し、成長していく過程を描いた作品であり、鷗外の思想である「利他的個人主義」が色濃く反映されています。夏目漱石の『三四郎』に影響を受け、明治時代の教養小説、青春小説の傑作として高く評価されています。

あらすじ

作家を目指す小泉純一は、夢を抱いて上京します。彼は著名な作家を訪問したり、親しくなった医学生の大村に啓発されたりしながら、刺激的な日々を送ります。ある日、純一は劇場で偶然、坂井未亡人と知り合い、親交を深めます。

純一は次第に坂井未亡人に惹かれていきますが、彼女を追って箱根へ向かった際、未亡人が画家の岡村と親密な関係にあることを知ります。その光景を目にした純一は、未亡人を単なる美しい肉体として感じてしまい、同時に、創作意欲が湧き上がってくるのを感じます。そして、当初考えていた現代小説ではなく、伝説を基にした小説を書くことを決意します。

各章の概要

上京と出会い: 小説家志望の小泉純一は、憧れの作家である大石路花に会いに行き、その作品について議論を交わします。また、下宿先で出会った少女、お雪に心惹かれるも、言葉が見つかりません。
知識との触れ合い: 純一は故郷でフランス語を学んだ宣教師ベルタンを思い出します。瀬戸に誘われて平田拊石の講演会に参加し、そこで医学生の大村と出会い、議論を交わします。大村は、古いものを壊して新しいものを建設する「新しい人」の思想を語ります。
恋愛の予感: イプセンの劇を観劇した際、純一は隣に座った坂井夫人から話しかけられ、親しくなります。坂井家を訪問し交流を深める中で、彼女への想いを募らせていきます。
葛藤と模索: 大村と大宮へ遠足に出かけ、ワイニンゲルの女性論について議論を交わします。大石路花の家を訪れた際には、彼女がアカデミックな新聞社でどのような作品を書くのかに関心を抱きます。また、お雪が部屋を訪れ、妹が入院した病院の話を聞き、複雑な感情を抱きます。
忘年会と夢: 同郷の県人会に出席した純一は、芸者を呼ぶか呼ばないかで議論が起こる様子を目の当たりにします。夢の中では、おちゃら、坂井夫人、お雪といった女性たちが現れ、彼の心を揺さぶります。
箱根への旅: 大村から幸福の定義を聞き、三枝茂子の情熱的な短歌と無邪気な質問に触発されます。箱根へ向かう旅の途中、粗末な宿に泊まることになりますが、そこで見た光景が彼の心に深く刻まれます。そして、箱根で坂井夫人と再会しますが、彼女が画家と親密にしている姿を見て、複雑な感情を抱き、東京へ帰ることを決意します。
決意: 東京に戻った純一は、創作への決意を新たにします。宿で出会った女中の姿に、自身の感情を重ね合わせます。

映像作品

1994年8月9日 - テレビドラマ「青年」（フジテレビ系）が、深夜番組『文學ト云フ事』の一本として放送されました。

関連項目

自由劇場 - 第1回の公演を主人公の純一が鑑賞する。

外部リンク

『青年』：新字新仮名 - 青空文庫
* 『青年』 - 国立国会図書館

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