青行燈

青行燈：百物語の怪異を象徴する妖怪

青行燈（あおあんどん）は、古くから伝わる日本の妖怪です。その名は、怪談話「百物語」と深く関わっています。百物語とは、夜に集まって怪談を語り合う会のこと。参加者は、怪談を一つ語るごとに灯を消していき、百話目まで続けると、何か恐ろしい出来事が起こると信じられていました。

青行燈は、この百物語の際に現れるとされる妖怪です。多くの場合、百話目になろうとする時、あるいは百話目が終わった後に姿を現すと伝えられています。百物語の雰囲気を高めるため、行燈に青い紙を貼っていたという風習も、青行燈という名前に繋がっているのかもしれません。

鳥山石燕の描いた『今昔百鬼拾遺』には、青行燈の姿が描かれています。そこでは、黒い長い髪に角を持ち、歯を黒く塗り、白い着物を着た鬼女の姿をしています。恐ろしい容貌が、百物語の恐怖感を増幅させるかのようです。

しかし、青行燈の正体については、諸説あります。江戸時代の怪談集『宿直草』にある「百物語して蜘の足を切る事」という話では、百話目の怪異として天井から大きな手が現れ、それが3寸ほどの蜘蛛の脚だったと記されています。この話が、青行燈の具体的な事例の一つと言えるかもしれません。

さらに、『今昔百鬼拾遺』の解説文には「鬼を談ずれば、怪にいたるといへり」という記述があります。これは、青行燈が特定の妖怪の名前ではなく、百物語の後に出現する様々な怪異を総称しているという説を支持するものです。つまり、青行燈は、百物語の恐怖の象徴と言えるのかもしれません。

実際、百物語を語った人々が、怪異を恐れて99個目で怪談をやめたという逸話も残されています。このことから、青行燈が現れたという具体的な記録はほとんど残っておらず、その姿や正体は、人々の想像によって形作られてきたと言えるでしょう。

近藤瑞木は、『今昔百鬼拾遺』に描かれた青行燈の絵について、独自の解釈をしています。絵には、行燈の周りには裁縫道具、櫛、手紙などが描かれています。これについて、近藤は、行燈の下で夫が他の女からもらった恋文を読んでいる場面を本妻が見て、嫉妬にかられている様子を表している、つまり絵の主題は嫉妬の執心であると主張しています。この解釈は、青行燈という妖怪の背景に、人間の感情、特に嫉妬という強い感情が潜んでいることを示唆しているのかもしれません。

このように、青行燈は、その正体や意味について様々な解釈が可能な、謎多き妖怪です。百物語の怪異との関連性、絵画からの解釈、そして人々の想像力によって形作られてきた存在として、青行燈は、日本の妖怪文化における重要な存在であり続けています。

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