靴をなくした天使

『靴をなくした天使』（原題：Hero）は、1992年に公開されたアメリカ映画です。この作品は、コメディを交えつつ、真のヒーローとは何か、という問いかけを投げかける、奥深い物語となっています。

物語の中心人物は、バーニー（ダスティン・ホフマン）という男です。彼は罪を犯し、裁判を待つ身です。弁護士からは、息子に会うなどして「よき父親」を演じるようアドバイスされますが、バーニーは反省の色を見せず、相変わらず悪事を働いています。

そんなある日、激しい雨の中、息子に会いに行く途中、バーニーは飛行機墜落事故を目撃します。彼は躊躇しながらも、沼地に沈みかけた飛行機から乗客たちを救出します。しかし、その際に泥の中で片方の靴を失い、約束の時間に遅れてしまい、息子に会うことができませんでした。

一方、事故に遭遇したテレビキャスターのゲイル（ジーナ・デイヴィス）は、自分を始め多くの乗客を救出した謎のヒーローを探し始めます。彼女はテレビでキャンペーンを展開し、もう片方の靴を持っているヒーローに高額の賞金をかけます。このニュースは瞬く間に全米に広がり、謎のヒーロー探しは一大ブームとなりました。

バーニーは、事故後、車が故障して途方に暮れているところに、車上生活者のババ（アンディ・ガルシア）に助けられます。彼はババに靴を渡し、飛行機事故での自分の行動を自慢げに話します。

その後、バーニーは別の事件で逮捕され、拘置所に入れられます。そこで彼はテレビで「ヒーロー探し」の騒動を知り、「自分がヒーローだ」と大喜びしますが、誰も彼を信じません。

そんな中、ヒーローとして名乗り出たのは、なんとバーニーから靴を受け取ったババでした。ホームレスから一躍時の人となったババは、良心の呵責に悩みながらも「ヒーロー」を演じ続け、ホームレスの救済を訴えたり、奇跡的な出来事を起こしたりするようになります。彼とゲイルの間には次第に愛情が芽生え始めます。しかし、罪悪感に耐えかねたババは、自殺を図ろうとします。

バーニーは、ババが自殺しようとしていることを知り、彼にある取引を持ちかけます。真実を公表しない代わりに、息子の学費を負担するというものです。ババはこれを承諾し、自殺を思いとどまります。

その後、バーニーは動物園で息子に真実を打ち明けます。息子はバーニーの行動に驚きながらも、やがて「誰か助けて！娘がライオンの檻に落ちた！」という悲鳴を聞きます。

この映画は、一見するとコメディのように見えますが、真のヒーローとは何か、善行とは何か、そして人間の本質とは何かを問いかける、深く考えさせられる作品です。バーニーの行動は自己中心的で、決して「正しい」とは言えませんが、彼の行動が結果的に多くの人々を救ったという皮肉な現実が描かれています。ババの葛藤もまた、人間の弱さと強さを象徴的に表現していると言えるでしょう。一見、おとぎ話のような展開の中に、人間ドラマが凝縮された、感動とユーモアに溢れる作品です。

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