頬筋

頬筋

頬筋は、ヒトの顔面にある浅層の筋肉群、特に口唇を取り巻く口筋に分類される筋肉です。この筋肉は、主に口角を横方向へ動かすことと、頬の内側を歯列にしっかりと押し当てる役割を担っています。

解剖学的な特徴

頬筋は、その起始点として、上顎骨の大臼歯が位置する部分の歯槽突起の頬側の面、および下顎骨の大臼歯部の頬側面にある頬筋稜から発しています。さらに、蝶形骨の翼突鈎と下顎骨の間を結ぶ強靭な結合組織である翼突下顎縫線からも起始しています。

筋肉はこれらの起始点から前方に走行し、その停止点である口の周囲の皮膚へと至ります。特に口角の領域では、他の顔面筋の腱や筋線維と複雑に交じり合い、モダイオラスと呼ばれる結節状の構造を形成しています。

頬筋は、口腔の側壁を形成し、歯列の非常に近い深層に位置しているのが特徴です。この位置関係は、医療用のCTスキャン画像などによって明確に確認することができます。

機能

頬筋の主な機能は二つあります。一つは、口角を外側や後方に引く動きに関与することです。これにより、笑顔を作るなどの表情筋としての側面も持ち合わせています。

もう一つ、そして生理学的により重要な役割は、頬を歯列に緊密に押し付けることです。この働きによって、咀嚼中に食物が歯と頬の間に挟まり込むのを防ぎ、口腔内での食物塊の形成（食塊）を助けます。また、息を吹く、笛を吹く、吸引するなどの動作においても、頬の内圧を調整するのに重要な役割を果たします。

翼突下顎縫線との関係

頬筋の起始の一部である翼突下顎縫線は、翼突鈎と下顎骨の間に張る線維性の帯です。これは結合組織で構成されており、下顎骨の臼後三角のすぐ内側の部分と、蝶形骨の翼突鈎の間を直線的に連結しています。この強固な線維性構造は、頬筋だけでなく、咽頭の収縮に関わる上咽頭収縮筋の起始点ともなっています。

翼突下顎縫線は、口腔内から指で触れることが可能です。この触診可能な位置にあることから、歯科臨床においては、下顎孔伝達麻酔と呼ばれる麻酔法を実施する際の注射針の進入口や方向を決定するための重要な解剖学的指標として利用されています。

頬筋は、単に表情を作るだけでなく、咀嚼という生命維持に不可欠な機能や、口腔内圧の調整、さらには歯科医療における処置の指標となる構造との関連など、多岐にわたる重要な役割を担っている筋肉です。

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