頸横動脈

頸横動脈 (けいおうどうみゃく)

概要 (Transverse Cervical Artery)

頸横動脈は、人体の頸部、すなわち首の領域に存在する主要な血管の一つです。この動脈は、その名称が示す通り、頸部の構造を横断するように走行する特徴を持っており、特定の重要な筋肉群に対して血液を供給するという役割を担っています。解剖学的に見ると、この血管は頸部後方や側方の深い部分を走行することが多く、周囲の神経や他の血管との位置関係が臨床的に重要となる場合があります。

起始

頸横動脈の起点は、主に甲状頚動脈 (Thyrocervical trunk) からの枝分かれです。甲状頚動脈は、頸部の下方、鎖骨の近くに位置する鎖骨下動脈 (Subclavian artery) から分岐する比較的太い血管幹であり、ここから複数の重要な枝が派生します。頸横動脈は、この甲状頚動脈の上部または後方から分岐し、そこから外側、そして多くの場合、後方へと向かって走行を開始します。その起始の正確な位置や走行経路には、個人差が見られることもあります。

走行

甲状頚動脈から分岐した頸横動脈は、頸部の深層部を通過します。その走行経路は複雑であり、しばしば腕の神経の束である腕神経叢 (Brachial plexus) と密接に関連しながら進みます。特に、腕神経叢の上方または中方を通過することが知られています。動脈は頸部から肩甲骨の上方へと向かい、その途中で頸部の様々な筋肉組織の間を横切るように走ります。この走行は、頸部の後方や上背部へと広がる筋肉群、特に栄養供給の対象となる筋への到達を可能にしています。

分布

頸横動脈が主に血液を供給する筋肉は二つあります。一つは、頸部から肩、そして上背部にかけて広がる非常に大きな筋肉である僧帽筋 (Trapezius muscle) です。もう一つは、背骨の非常に近くに位置する、体幹の安定や姿勢維持に重要な役割を果たす深層の筋肉群、すなわち固有背筋 (Muscles of back proper) です。

僧帽筋: この筋肉は、肩甲骨の挙上、下制、内転、外転、回旋といった複雑な動きや、頸部の伸展、側屈、回旋などに関与します。頸横動脈は、特にこの僧帽筋の上部や中部に血液を供給し、肩や首の動きを支えるエネルギーや栄養素を供給します。
固有背筋: 脊柱起立筋群などを含む固有背筋は、背骨の安定化、体幹の伸展、側屈、回旋といった姿勢の維持や体幹の動きに不可欠です。頸横動脈は、頸部から上胸部にかけての領域にあるこれらの深層筋に血液を届け、その活動に必要な酸素や栄養素を提供します。

これらの筋肉は、私たちの日常的な体の動きや姿勢を維持するために非常に重要であり、頸横動脈からの安定した血流供給がその機能維持に不可欠となっています。

臨床的意義

頸横動脈の解剖学的知識は、頸部や肩、上背部領域における外科手術や麻酔処置において重要となります。特に、腕神経叢ブロックなどの手技においては、頸横動脈やそれに近接する血管を損傷しないよう、正確な解剖学的理解が求められます。また、この動脈の血流障害は、僧帽筋や固有背筋の機能低下につながる可能性も考えられます。

まとめ

頸横動脈は、甲状頚動脈から分岐し、頸部の筋肉、特に僧帽筋や固有背筋といった重要な筋群に血液を供給する血管です。その走行は頸部の深部を横断し、周囲の構造、とりわけ腕神経叢と密接な関連を持ちます。この動脈による適切な血流供給は、頸部および背部の筋肉活動を支え、体の姿勢や運動能力の維持に貢献しています。その解剖学的特徴を理解することは、この領域に関連する医療分野において極めて重要です。

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