顔のない眼

顔のない眼 (1960)

ジョルジュ・フランジュ監督によるフランス・イタリア合作映画『顔のない眼』は、1960年に公開された怪奇映画の佳作です。事故で顔を失った娘と、その父親である医師の狂気を描いた作品であり、残酷描写を含みながらも、その映像美と心理描写で高く評価されています。

あらすじ

美しい娘クリスティーヌは、交通事故によって顔に酷い火傷を負い、醜い姿となってしまいます。人目を避けるように、彼女は仮面を着け、郊外の屋敷で父ジェネシュ博士と助手のルイーズと共に暮らしています。

ジェネシュ博士は高名な医師であり、娘の顔を元に戻すために、若い女性の顔の皮膚を移植しようと企てます。助手を使って若い女性を誘拐し、麻酔をかけて顔の皮膚を剥ぎ取り、クリスティーヌの顔に移植するという非人道的な行為を繰り返します。

クリスティーヌは一時的に美しい顔を取り戻しますが、移植された皮膚はすぐに崩れ落ち、元の醜い姿に戻ってしまいます。孤独な彼女にとって、心を慰めてくれるのは実験用の犬たちだけでした。ジェネシュ博士は娘のためというより、自身の研究のためにこのような行為を繰り返しているようにも見えます。

警察は行方不明事件の捜査を進める中で、ポーレットという女性をおとり捜査に利用します。ポーレットはジェネシュ博士に捕らえられ手術室に連れ込まれますが、クリスティーヌはルイーズを刺殺し、ポーレットを逃がします。そして、犬の檻を開け放ちます。猛犬たちはジェネシュ博士に襲い掛かり、彼は無残な死を遂げます。クリスティーヌは仮面をつけたまま、夜の森へと消えていくのでした。

製作の背景

1950年代末、イギリスのハマー・フィルム・プロダクションが製作した低予算の怪奇映画が国際的な成功を収めました。これに触発されたフランスのプロデューサー、ジュール・ボルコンは、フランス製の怪奇映画を企画しました。

原作には、映画の脚本家であるジャン・ルドンによる唯一の小説『顔のない眼』が選ばれました。監督にはジョルジュ・フランジュが起用されましたが、彼は当初この企画に乗り気ではなく、脚本の執筆は難航しました。そこで、プロデューサーは当時人気推理小説家コンビであったボワロー＝ナルスジャックに脚本への参加を依頼し、彼らの参加が作品の方向性を決定づけました。

ボワロー＝ナルスジャックは、通俗的な怪奇映画とは異なる、抒情的な恐怖映画を目指し、物語の焦点をマッド・サイエンティストである医師から、その娘クリスティーヌへと移しました。また、原作では病的な麻薬中毒者であった医師の共犯者を、医師に盲目的な忠誠を誓う女性に変更するなど、大幅な改変が行われました。

フランジュ監督は、当初は雇われ監督として企画に協力していましたが、ボワロー＝ナルスジャックによる脚色によって初めてこの企画に興味を持ったと述懐しています。

原作について

原作小説は、1959年にフルーヴ・ノワール社から刊行されました。同社は当時、ミステリー小説に強い出版社として知られていました。原作小説は、映画と比較して扇情的で品位に欠けるとも評されていますが、同時に、大手出版社では企画が通りにくいような先鋭的な作品や新人の作品を積極的に出版する社風も持っていました。

原作者であるジャン・ルドンの実像は、現在もよく知られていません。彼がフレデリック・ダールと同一人物であるという説も存在しますが、それを裏付ける根拠はありません。

なお、この小説はパリのグラン・ギニョール劇場で演劇化され、1962年に閉鎖された同劇場の最終期の上演作品となりました。

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