風のあるぺじお

『風のあるぺじお』（かぜのあるぺじお）は、1987年に日本で公開された映画です。中山節夫氏が監督を務めた本作は、公開当時、文部省選定作品に選ばれるとともに、優秀映画鑑賞会からも推選を受けるなど、その内容が高く評価されました。

この映画の基となったのは、フォークシンガーとして知られるはしだのりひこ氏が、ご自身の「主夫」として家庭を支えた体験を赤裸々に綴った手記『おとうさんゴハンまーだ』（1986年刊行）です。原作が個人の実体験に基づいていることもあり、物語には説得力とリアリティがあります。

物語の主人公は、これまで仕事一筋で家庭のことは妻に任せきりだった一人の男性です。しかし、妻が病に倒れたことをきっかけに、彼の日常は一変します。妻に代わって、彼は家庭内のあらゆる責任を引き受けることになります。具体的には、日々の食事の準備（炊事）、衣類の洗濯、家の掃除といった家事全般に加え、子どもの世話（育児）まで、これまで経験したことのない様々なタスクに直面します。仕事と家事・育児の両立という、それまで意識したことのなかった壁にぶつかりながら、主人公は戸惑い、時には失敗を繰り返しながらも、父親として、夫として、新たな役割を模索していきます。

映画は、こうした主人公の変化を通して、従来の家族のあり方や、性別によって固定化されがちな夫婦の役割分担について深く問いかけます。仕事だけが男性の役割ではないこと、家庭を築き、子どもを育てることの重要性や大変さ、そしてそこから生まれる喜びや気づきを描き出すことで、観る者に自身の家族関係や働き方を見つめ直すきっかけを提供します。

本作の上映形式も特筆すべき点です。一般的に映画は映画館で公開されますが、『風のあるぺじお』は「学校を映画館に」というユニークなスローガンを掲げ、全国各地の学校や公民館などの公共施設を会場として、積極的に自主上映会が行われました。これは、より多くの人々に映画のメッセージを届けたいという製作側の意図や、家庭や教育というテーマを扱う本作の特性を反映した上映活動と言えるでしょう。このような草の根的な上映活動は、映画と観客との新たな繋がりを生み出し、地域社会における映画の役割についても示唆を与えるものでした。

『風のあるぺじお』は、一人の男性が家事・育児を通して成長し、家族との絆を深めていく姿を描くとともに、社会における「働くこと」と「家庭を築くこと」の意味、そして柔軟な家族のあり方について問いかける、今日においても色褪せないテーマを持った作品です。そのメッセージは、全国での自主上映活動によって、多くの人々に届けられました。

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