風の戦士ダン
『風の戦士ダン』作品解説
『風の戦士ダン』は、雁屋哲が原作を、島本和彦が作画を手がけた日本の漫画作品です。1982年6月号から1986年4月号にかけて、『週刊少年サンデー増刊』（小学館）にて連載されました。単行本は小学館少年サンデーコミックスより全9巻が刊行されています。
この物語は、現代に生きる忍者、朝霧ダンの活躍を描いています。原作者の雁屋哲にとっては、代表作である『男組』と『美味しんぼ』の狭間に位置する、キャリアの過渡期に描かれた作品であり、作画の島本和彦にとっては、漫画家デビュー後初めての連載作品にあたります。
連載開始当時、雁屋哲は「熱き男たちの格闘漫画」の担い手として知られ、「雁屋哲といえば暴力漫画」というイメージが定着していました。また、彼は自身の考案した原作から外れる要素が漫画に取り入れられることを極度に嫌う傾向があったとされています。雁屋自身がブログで語ったところによれば、担当編集者は島本から上がってくる原稿を出す際に、恐る恐る提出していたほどだったといいます。雁屋は当初、作品にギャグ要素を盛り込む意図はなかったものの、島本和彦が生み出すギャグを非常に面白いと感じ、次第に自身でも漫画の中にギャグを取り入れたいと考えるようになりました。そして、後に大ヒットとなる『美味しんぼ』が成功したのは、島本のギャグセンスを吸収し、原作段階からギャグを導入するという新たな表現手法を獲得できたからだと述懐しています。
一方、当時の島本和彦は「ギャグにかけては負けないが、ストーリーの構築は苦手」という、ギャグを主軸に置いた作風でした。彼は雁屋との共同作業について、「毎回原稿用紙30枚にも及ぶ膨大なボリュームの原作を前に、まるで国語の試験のように、いかに内容を要約するかが問われ、鍛えられた」「『風の戦士ダン』での経験がストーリー作りの訓練となり、その成果が『炎の転校生』に活かされた」と語っています。連載当時は、原作に囚われない島本の独自の表現力を評価する声もありましたが、島本自身は「雁屋先生は、私のこと（仕事）を黒歴史と捉えているのではないか、きっと私に怒っているだろう」というわだかまりを抱えていました。
この長年のわだかまりは、2009年3月に開催されたサンデー・マガジン共同50周年記念パーティーでの両者の再会によって解消されます。後日、それぞれのブログでこの再会に触れ、雁屋は「私の漫画はそれまで暴力漫画一辺倒だった。あのままだったら『美味しんぼ』は書けなかった」と自身の変化に触れ、島本は「25年間のからだとか心に詰まったものがすべて洗い流された」と、長年の懸念が晴れた心境を記しています。
島本和彦の自伝的漫画『アオイホノオ』（小学館『ゲッサン』連載中）では、『風の戦士ダン』の創作過程が詳細に描かれています。雁屋との初対面、送られてくる膨大な原作に苦悩しつつも、「原作をベースに、得意なギャグを交えたパロディー漫画として描く」という発想に行き着くまでの軌跡が活写されています。また、作中でダンたちが使用する忍刀などの小道具や、バイク、飛行船といったメカニックデザインを、デザイナーの出渕裕が担当していたことも明らかにされています。単行本では出渕によるラフ画や、雁屋の手書き原作原稿の一部も収録されています（17巻以降）。さらに、『アオイホノオ』の第152章（26巻収録）では、連載途中で雁屋の原作自体にギャグが盛り込まれるようになったにも関わらず、島本がそのギャグを敢えて削っていたという事実が明かされ、証拠として雁屋のオヤジギャグが満載された原作が原文と共に掲載され、皮肉にも『男組』を作画した池上遼一風の絵柄で忠実に漫画化されるという描写もありました。また、『美味しんぼ』第11話「活きた魚」には、食事ができるのを待つ少年が読んでいる漫画として、『風の戦士ダン』が登場するカメオ出演シーンがあります。
あらすじ
物語は、歴代政府が育成してきた二つの忍者組織「恐車一族」と「神魔一族」の対立を軸に展開します。彼らは「超忍」と呼ばれ、並外れた戦闘能力と情報収集力を誇っていました。ある時、神魔一族の首領・神魔魔太郎が謎の兵器「終末兵器」を奪い反乱を起こします。政府は恐車一族に「終末兵器」の奪還と神魔一族の壊滅を命じ、これにより恐車一族の一員である朝霧弾と、彼が所属する巡回処刑人グループは、神魔一族の刺客たちとの激しい抗争に巻き込まれていきます。
巡回処刑人グループは、神魔一族による「終末兵器」の実用化実験を阻止することに成功し、北海道など国内の保管施設を特定して破壊します。一方でダンは、戦いの中で宿敵である魔太郎と対峙し挑みかかりますが、魔太郎はダンの命を奪わず、「政府が真に正義なのか、よく考えるように」と意味深な言葉を投げかけます。
「終末兵器」の実用化阻止に安堵する政府首脳と恐車一族でしたが、神魔一族は政府が極秘に進めていた「破滅兵器」を奪うべく、再び挑戦状を叩きつけます。やがて、政府がこの兵器を用いて世界各国に戦争を引き起こし、太平洋戦争の遺恨を晴らそうと企んでいることが明らかになります。真実を知ったダンは、仲間と共に恐車一族を離反し、「破滅兵器」の開発を阻止するための戦いを続けます。その激しい戦いの渦中で、ダンは自身が神魔魔太郎の実の息子であることを知るのです。
「破滅兵器」を巡る最終決戦は、魔太郎と恐車一族の頭領・恐車七角の一騎討ちへと収束していきます。しかし、それぞれの配下の超忍や、巡回処刑人グループも加わり、三つ巴の乱戦となります。乱戦の最中、ダンは脇腹を貫かれながらも恐車を両腕で締め上げる魔太郎と再び出会います。魔太郎はダンに対し、自身の体ごと恐車に止めを刺すよう命じます。実の父親の言葉に押され、苦渋の選択をするダン。物語は、魔太郎がダンに「普通の若者として生き、新しい世界を創造しろ」という願いを託して幕を閉じます。
主な登場人物
朝霧 弾（あさぎり だん）: 本作の主人公。巡回処刑人グループの一員であり、自称NO.1ですが、物語の中ではギャグメーカー的な役割も担います。必殺技は「下り飛龍」。神魔魔太郎の実子ですが、甘やかされることを嫌った魔太郎によって、生まれてすぐに恐車一族の朝霧家へ養子に出されました。後に両一族が敵対し、引き戻すことが困難になります。
神魔 魔太郎（じんま またろう）: 神魔一族の首領であり、ダンの宿敵でありながら実の父親です。「終末兵器」が世界制覇のための手段だと知り、政府に反旗を翻しました。
作中の用語
終末兵器: 人食いカビを兵器化したもので、生物を急速に消化・消滅させます。カビの制御や無効化に課題があり、実用化には至りませんでした。
破滅兵器: 人間の脳細胞に作用し、同士討ちを誘発する「殺し合いガス」です。
書誌情報
雁屋哲（原作）・島本和彦（作画）『風の戦士ダン』小学館〈少年サンデーコミックス〉全9巻。
関連作品
デスパイ: 本作の登場人物である権吸堂三が、名前を変えてゲスト出演しています。
アオイホノオ: 作画担当の島本和彦による自伝的作品で、本作の創作秘話が詳細に描かれています。
『風の戦士ダン』は、雁屋哲が原作を、島本和彦が作画を手がけた日本の漫画作品です。1982年6月号から1986年4月号にかけて、『週刊少年サンデー増刊』（小学館）にて連載されました。単行本は小学館少年サンデーコミックスより全9巻が刊行されています。
この物語は、現代に生きる忍者、朝霧ダンの活躍を描いています。原作者の雁屋哲にとっては、代表作である『男組』と『美味しんぼ』の狭間に位置する、キャリアの過渡期に描かれた作品であり、作画の島本和彦にとっては、漫画家デビュー後初めての連載作品にあたります。
連載開始当時、雁屋哲は「熱き男たちの格闘漫画」の担い手として知られ、「雁屋哲といえば暴力漫画」というイメージが定着していました。また、彼は自身の考案した原作から外れる要素が漫画に取り入れられることを極度に嫌う傾向があったとされています。雁屋自身がブログで語ったところによれば、担当編集者は島本から上がってくる原稿を出す際に、恐る恐る提出していたほどだったといいます。雁屋は当初、作品にギャグ要素を盛り込む意図はなかったものの、島本和彦が生み出すギャグを非常に面白いと感じ、次第に自身でも漫画の中にギャグを取り入れたいと考えるようになりました。そして、後に大ヒットとなる『美味しんぼ』が成功したのは、島本のギャグセンスを吸収し、原作段階からギャグを導入するという新たな表現手法を獲得できたからだと述懐しています。
一方、当時の島本和彦は「ギャグにかけては負けないが、ストーリーの構築は苦手」という、ギャグを主軸に置いた作風でした。彼は雁屋との共同作業について、「毎回原稿用紙30枚にも及ぶ膨大なボリュームの原作を前に、まるで国語の試験のように、いかに内容を要約するかが問われ、鍛えられた」「『風の戦士ダン』での経験がストーリー作りの訓練となり、その成果が『炎の転校生』に活かされた」と語っています。連載当時は、原作に囚われない島本の独自の表現力を評価する声もありましたが、島本自身は「雁屋先生は、私のこと（仕事）を黒歴史と捉えているのではないか、きっと私に怒っているだろう」というわだかまりを抱えていました。
この長年のわだかまりは、2009年3月に開催されたサンデー・マガジン共同50周年記念パーティーでの両者の再会によって解消されます。後日、それぞれのブログでこの再会に触れ、雁屋は「私の漫画はそれまで暴力漫画一辺倒だった。あのままだったら『美味しんぼ』は書けなかった」と自身の変化に触れ、島本は「25年間のからだとか心に詰まったものがすべて洗い流された」と、長年の懸念が晴れた心境を記しています。
島本和彦の自伝的漫画『アオイホノオ』（小学館『ゲッサン』連載中）では、『風の戦士ダン』の創作過程が詳細に描かれています。雁屋との初対面、送られてくる膨大な原作に苦悩しつつも、「原作をベースに、得意なギャグを交えたパロディー漫画として描く」という発想に行き着くまでの軌跡が活写されています。また、作中でダンたちが使用する忍刀などの小道具や、バイク、飛行船といったメカニックデザインを、デザイナーの出渕裕が担当していたことも明らかにされています。単行本では出渕によるラフ画や、雁屋の手書き原作原稿の一部も収録されています（17巻以降）。さらに、『アオイホノオ』の第152章（26巻収録）では、連載途中で雁屋の原作自体にギャグが盛り込まれるようになったにも関わらず、島本がそのギャグを敢えて削っていたという事実が明かされ、証拠として雁屋のオヤジギャグが満載された原作が原文と共に掲載され、皮肉にも『男組』を作画した池上遼一風の絵柄で忠実に漫画化されるという描写もありました。また、『美味しんぼ』第11話「活きた魚」には、食事ができるのを待つ少年が読んでいる漫画として、『風の戦士ダン』が登場するカメオ出演シーンがあります。
あらすじ
物語は、歴代政府が育成してきた二つの忍者組織「恐車一族」と「神魔一族」の対立を軸に展開します。彼らは「超忍」と呼ばれ、並外れた戦闘能力と情報収集力を誇っていました。ある時、神魔一族の首領・神魔魔太郎が謎の兵器「終末兵器」を奪い反乱を起こします。政府は恐車一族に「終末兵器」の奪還と神魔一族の壊滅を命じ、これにより恐車一族の一員である朝霧弾と、彼が所属する巡回処刑人グループは、神魔一族の刺客たちとの激しい抗争に巻き込まれていきます。
巡回処刑人グループは、神魔一族による「終末兵器」の実用化実験を阻止することに成功し、北海道など国内の保管施設を特定して破壊します。一方でダンは、戦いの中で宿敵である魔太郎と対峙し挑みかかりますが、魔太郎はダンの命を奪わず、「政府が真に正義なのか、よく考えるように」と意味深な言葉を投げかけます。
「終末兵器」の実用化阻止に安堵する政府首脳と恐車一族でしたが、神魔一族は政府が極秘に進めていた「破滅兵器」を奪うべく、再び挑戦状を叩きつけます。やがて、政府がこの兵器を用いて世界各国に戦争を引き起こし、太平洋戦争の遺恨を晴らそうと企んでいることが明らかになります。真実を知ったダンは、仲間と共に恐車一族を離反し、「破滅兵器」の開発を阻止するための戦いを続けます。その激しい戦いの渦中で、ダンは自身が神魔魔太郎の実の息子であることを知るのです。
「破滅兵器」を巡る最終決戦は、魔太郎と恐車一族の頭領・恐車七角の一騎討ちへと収束していきます。しかし、それぞれの配下の超忍や、巡回処刑人グループも加わり、三つ巴の乱戦となります。乱戦の最中、ダンは脇腹を貫かれながらも恐車を両腕で締め上げる魔太郎と再び出会います。魔太郎はダンに対し、自身の体ごと恐車に止めを刺すよう命じます。実の父親の言葉に押され、苦渋の選択をするダン。物語は、魔太郎がダンに「普通の若者として生き、新しい世界を創造しろ」という願いを託して幕を閉じます。
主な登場人物
朝霧 弾（あさぎり だん）: 本作の主人公。巡回処刑人グループの一員であり、自称NO.1ですが、物語の中ではギャグメーカー的な役割も担います。必殺技は「下り飛龍」。神魔魔太郎の実子ですが、甘やかされることを嫌った魔太郎によって、生まれてすぐに恐車一族の朝霧家へ養子に出されました。後に両一族が敵対し、引き戻すことが困難になります。
神魔 魔太郎（じんま またろう）: 神魔一族の首領であり、ダンの宿敵でありながら実の父親です。「終末兵器」が世界制覇のための手段だと知り、政府に反旗を翻しました。
作中の用語
終末兵器: 人食いカビを兵器化したもので、生物を急速に消化・消滅させます。カビの制御や無効化に課題があり、実用化には至りませんでした。
破滅兵器: 人間の脳細胞に作用し、同士討ちを誘発する「殺し合いガス」です。
書誌情報
雁屋哲（原作）・島本和彦（作画）『風の戦士ダン』小学館〈少年サンデーコミックス〉全9巻。
関連作品
デスパイ: 本作の登場人物である権吸堂三が、名前を変えてゲスト出演しています。
アオイホノオ: 作画担当の島本和彦による自伝的作品で、本作の創作秘話が詳細に描かれています。
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