風の街 (三橋美智也の曲)

「風の街」：三橋美智也が探求した新境地

「風の街」は、日本の演歌界を代表する歌手、三橋美智也が1977年9月にリリースしたシングルレコードです。

この楽曲は、当時としては非常に革新的な試みとして知られています。三橋美智也の音楽性の根幹をなす要素の一つに、故郷である青森県津軽地方の民謡への深い愛情と理解があります。本作では、その民謡、特に「ホーハイ節」の独特な節回しや雰囲気を巧みに取り入れながら、当時の音楽シーンで台頭しつつあったニューミュージックのエッセンスを融合させるという手法が採用されました。その結果、従来の演歌の枠に留まらない、叙情的かつ現代的なサウンドが生まれ、「ニューミュージック調の演歌」という、新たなジャンルを開拓するような楽曲となりました。これは、常に自身の音楽を深化させようとする三橋美智也の挑戦的な姿勢を示す一例と言えるでしょう。

楽曲がリリースされた1977年の年末、本作は「第28回NHK紅白歌合戦」で披露されました。紅白歌合戦は、その年の音楽シーンを象徴する特別な舞台であり、多くの歌手にとって最高の栄誉とされていました。三橋美智也は、この年の紅白で「風の街」を情感豊かに歌い上げ、多くの視聴者に感動を与えました。しかしながら、この「風の街」の歌唱が、結果として彼の歌手キャリアにおける最後の紅白出場、そして最後のテレビでの歌唱機会となったのです。その後、残念ながら彼は紅白歌合戦に再び出場することなく、1996年1月8日に惜しまれつつもこの世を去りました。そのため、「風の街」は、三橋美智也の長い歌手人生における、公の場で歌う姿を見せた最後の楽曲として、ファンにとっては特別な意味を持つ一曲となっています。

シングルのB面には、「北緯四十五度の町」という楽曲が収められています。こちらもA面と同じく、作詞は吉田健美、作曲は三橋美智也自身、編曲は高田弘が手掛けています。この「北緯四十五度の町」には、興味深い特徴が一つ存在します。それは、楽曲の3番の歌詞に、二つの異なるバージョンが確認されていることです。

一つは、「岬で遊ぶ 海鳥が 明日は晴れだと 教えてくれる」という表現を含むバージョンです。これは、海鳥の様子から未来の天候を読み取り、希望を感じさせる情景描写と言えます。もう一つは、「飛ぶ海鳥の こえもかなしい」という表現を含むバージョンです。こちらは、同じ海鳥を描写しながらも、そこに悲哀や叙情性を強く感じさせる内容となっています。このように、同じ楽曲でありながら、聴き手に与える印象が異なる二つの歌詞バージョンが存在することは、制作過程における試行錯誤や、異なる媒体（レコード、楽譜、歌本など）への収録時の差異など、様々な要因が考えられます。この歌詞の差異は、「北緯四十五度の町」という楽曲、ひいては本作のもう一つの聴きどころ、あるいは研究対象となっています。

「風の街」とそのB面曲「北緯四十五度の町」は、三橋美智也が自身のルーツである民謡と、当時の先端を行く音楽スタイルを融合させようとした意欲的な作品であり、また、彼の公での歌唱活動の終着点ともなった、彼のキャリアにおいて重要な位置を占めるシングルと言えるでしょう。その音楽性や、B面曲にまつわる逸話など、様々な角度から楽しむことができる一作です。

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