風景構成法

風景構成法：心の風景を描く心理療法

風景構成法（Landscape Montage Technique; LMT）は、1969年に中井久夫博士によって考案された、絵画療法（芸術療法）の一種です。統合失調症患者の治療を目的として開発されたこの技法は、患者の内面世界を理解するための効果的なツールとして、日本国内のみならず、ドイツ、インドネシア、アメリカ合衆国など海外でも広く知られています。

箱庭療法からの着想と発展

風景構成法は、河合隼雄博士の箱庭療法から大きな影響を受けています。河合博士が統合失調症患者の箱庭療法における観察から得た知見、「患者の世界は、箱の枠の外側の狭い空白部分かもしれない」という着眼点が、中井博士の風景構成法の開発へと繋がりました。箱庭療法における枠の重要性に着目した中井博士は、画用紙にあらかじめ枠を描くことで、患者に安全感と安心感を与え、より自由な表現を促す「枠付け法」を考案しました。

方法：枠から始まる創造の旅

風景構成法では、まず治療者が患者の前で画用紙の周囲に枠を描き、患者に画用紙とペンを渡します。そして、患者に自由に風景を描いてもらいます。上手下手は関係なく、自分の心の風景を表現することが大切だと伝えられます。

描画は段階的に行われ、まず風景の構成要素（例えば、山、川、家など）を一つずつ描いていきます。その後、クレヨンや色鉛筆を使って彩色し、作品が完成します。治療者は、患者の表現を注意深く観察し、患者の心の状態を読み取ります。

解釈：心の構造を読み解く

風景構成法における解釈は、単なる絵画の分析にとどまりません。中井博士の初期研究では、統合失調症患者特有の表現パターン（H型、P型など）が指摘されました。しかし、風景構成法の真価は、各構成要素の配置や色彩、それらの相互関係から患者の内面世界を理解することです。

近年では、川嵜克哲博士らによる研究で、構成要素の提示順序や空間配置といった力動的なプロセスに着目した解釈方法が注目されています。これらの研究によって、風景構成法はより深みのある心理療法として進化し続けています。

所要時間と参考文献

風景構成法の実施時間は、概ね15分から25分程度です。

この技法に関する詳しい情報は、以下の参考文献に記載されています。

山中康裕（編）『中井久夫著作集 別巻１ H・NAKAI 風景構成法』岩崎学術出版社、1984年
皆藤章『風景構成法 —その基礎と実践』誠信書房、1994年
皆藤章 川嵜克哲 『風景構成法の事例と展開 ― 心理臨床の体験知』 誠信書房、2002年
川嵜克哲　『風景構成法の文法と解釈』 福村出版、2018年

関連人物と関連項目

風景構成法の発展に貢献した重要な人物として、中井久夫博士、河合隼雄博士、山中康裕博士、皆藤章博士、川嵜克哲博士らが挙げられます。また、市橋秀夫氏、中里均氏、滝川一廣氏なども関連する研究者です。

風景構成法は、心理検査、絵画療法、箱庭療法、ロールシャッハテスト、HTPテスト、なぐり描き法など、他の心理療法や心理検査と関連性を持つ技法です。

もう一度検索