風街ろまん

はっぴいえんど『風街ろまん』：時代を彩る名盤の軌跡

1971年11月20日、はっぴいえんどによって世に送り出された2枚目のアルバム『風街ろまん』。この作品は、日本の音楽史に燦然と輝く名盤として、現在もなお高い評価を受けています。

急激な変化とノスタルジア

1964年の東京オリンピック以降、日本の首都東京は目覚ましい発展を遂げました。高度経済成長の波は、古き良き東京の風景を次々と消し去っていきました。このアルバムでは、そんな急速な近代化の中で失われゆく街並みや文化を、「風街」という架空の街に投影することで、時代の移り変わりへの複雑な感情、そしてノスタルジアを表現しています。全体を覆う、どこか物憂げで、しかし美しくも切ない空気感が、このアルバムの大きな魅力となっています。

音楽的完成度の高さ

前作『はっぴいえんど』と比較すると、『風街ろまん』は楽曲の完成度、松本隆による詩の世界観ともに格段の進歩を見せています。大瀧詠一、細野晴臣、鈴木茂という、それぞれが独自の才能を放つ作曲陣の楽曲は、聴く者の心を深く捉えます。このアルバムによって、はっぴいえんどはバンドとしての完成形に到達したと言えるでしょう。実際、このアルバム発表後、グループは事実上の解散状態に入りました。

しばしば「良質な音楽と豪華なメンバーにも関わらず、当時は売れなかった」という記述を見かけますが、細野晴臣自身は、当時としてはそこそこ売れていたと証言しています。売上枚数の正確な記録が残っていないのは、関係者らが商業的な成功にあまり関心がなかったためだとされています。また、このアルバムは、当時活発に行われていた日本語ロック論争に終止符を打ったとも言われています。

録音とスタッフ

エンジニアリングは、東芝音楽工業を退社したばかりの吉野金次が担当しました。彼の音作りはアルバム全体のサウンドに大きな影響を与えています。ただし、大瀧詠一がボーカルをとる楽曲（「春らんまん」を除く）は、ビクター音楽産業所属の梅津達男（当時、ビクター以外での仕事では本名が使えなかったため、「近藤むさし」名義）が担当しています。

アルバムのクレジットに「AQUENT AND FRIEND – 岩井宏, 三浦光輝, GG」という記述がありますが、これは大瀧詠一の強い主張によるものです。彼は、前作でプロデューサーとしてクレジットされていた人物が実際には制作に関わっていなかったことに抗議し、クレジット内容について議論しました。その結果、この独特なクレジット表記になったと言われています。また、各楽曲のプロダクション関係者の名前が記載されているのも、基本的には大瀧詠一の意向によるものです。

興味深いことに、後に収録曲すべてのマルチトラックテープが残されていることが判明しました。これは、このアルバムの価値をさらに高める発見でした。

アートワークとジャケット写真

アルバムジャケットは、メンバー4人の顔写真がシンプルに並んだデザインです。撮影を担当した野上眞宏によると、メンバーからは不評だったそうです。当初は路面電車のイラストが描かれたデザインが予定されていましたが、宮谷一彦のアトリエでデザインが変更され、最終的にシンプルな顔写真となりました。ニューヨークのフォトブックを参考に、フラットなライティングとサイドからのライティングの2パターンで撮影され、ハイコントラストの印画紙を使用して顔の輪郭をぼかした仕上がりとなっています。ジャケット裏面の写真は、稲荷山公園で撮影されたもので、西海岸のロックバンドのアルバムジャケットをイメージしていると言われています。

収録曲とカバー

『風街ろまん』は、全12曲から構成されています。それぞれの楽曲は、松本隆の詩と、はっぴいえんどのメンバーによる洗練された音楽によって彩られています。代表曲である「風をあつめて」「夏なんです」「抱きしめたい」などは、多くのアーティストによってカバーされており、その人気は現在も衰えることを知りません。

まとめ

『風街ろまん』は、高度経済成長期の日本の風景、そして時代の移り変わりを背景に生まれた名盤です。楽曲、歌詞、アートワーク、すべてが一体となり、聴く者の心に深い印象を残す作品となっています。その音楽的価値は、時代を超えて人々に愛され続けていることからも明らかです。このアルバムは、はっぴいえんどの音楽性、そして日本の音楽史における重要な位置付けを示すものと言えるでしょう。

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