風車 (将棋)

風車：独特の持久戦型戦法

風車は、将棋における独特の戦法です。その名の通り、飛車を盤上で自在に動かし、まるで風車が回転するように局面を変化させることから名付けられました。考案者である伊藤果九段は、居飛車穴熊対策としてこの戦法を開発し、数々の勝利を収めました。しかし、その難解さから、他の棋士による採用例は非常に少ない、珍しい戦法と言えるでしょう。

戦法の特徴：堅実な受けとじりじりとした攻め

風車の基本的な形は、飛車を盤面の下段に配置し、状況に応じて5筋、8筋、2筋と柔軟に動かすのが特徴です。玉も▲5八～▲4九～▲3八と動き、右金もそれに合わせて▲4八～▲3八と動くことで、相手の攻めを堅実に受け止めます。角も▲5七～▲6八と柔軟に動くことが多く、香車は8段目に上がることもあります。

この戦法の最大の特徴は、その堅実性と持久戦にあります。相手からの攻撃に対して柔軟に対応し、無理攻めを許さず、反撃の機会を伺います。しかし、自分から積極的に攻めることは難しく、伊藤九段自身も「戦わない！攻めない！千日手だっていい！」という精神で臨んでいたと語っています。まさに、じりじりと優勢を築き、勝利を掴むための戦略的な戦法です。

戦法の評価：難解さゆえに稀有な存在

風車は、その独特のスタイルから、多くのプロ棋士からは理解しがたい戦法と見なされています。森内俊之九段は、伊藤九段以外が使いこなすのは非常に難しいと証言しており、公式戦での採用例は極めて少ないのが現状です。

1983年頃のレポートでは、風車は非常に忍耐力を要求される戦法であり、消極的な指し方だと批判された時期もありました。しかし、伊藤九段は数々の勝利を収め、風車を一つの立派な戦法として確立しました。勝てば官軍という言葉通り、その戦略眼と実践力は高く評価されています。

新風車：攻めを取り入れた発展型

近年では、初期の風車に攻めの要素を取り入れた「新風車」も提唱されています。初期の風車が完全に受けに回るのに対し、新風車はより積極的な指し回しを取り入れることで、より柔軟な対応が可能になりました。

駒落ち将棋における風車の有効性

風車の戦法開発のきっかけは、駒落ち将棋における下手の戦略でした。伊藤九段は、二枚落ちの下手が、この戦法に似た構えで上手を苦しめていたことに着目しました。

駒落ち将棋において、下手は常に不利な立場にありますが、風車のような堅実な受けの戦法は、上手の攻めを凌ぎ、千日手や反則を誘う可能性を高めることができます。そのため、棋力差が大きい場合でも、上手が勝利するのは容易ではありません。

まとめ：独特の戦術と棋士の信念

風車は、その独特の戦略と、それを貫く伊藤九段の信念によって生み出された戦法です。難解で、実践例は少ないながらも、将棋界において独自の地位を築いています。その堅実性と柔軟性は、将棋の奥深さ、そして戦略の多様性を改めて感じさせてくれるでしょう。 風車の存在は、将棋における戦略の幅広さを示す、一つの象徴と言えるかもしれません。

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