食肉小売品質基準

食肉小売品質基準とは

食肉小売品質基準は、農林水産省が日本の消費者保護のために制定した重要な通達です。これは、小売店で販売される牛肉や豚肉について、消費者がその品質や特性を正確に理解し、適切な商品を選択できるようにすることを目的としています。この基準は、食肉小売業界に対して遵守を促すための行政指導の一環として機能しています。

策定の背景

この基準が誕生した背景には、昭和30年代後半から高まった消費者保護への意識があります。特に、昭和39年（1964年）の東京オリンピック開催前後に、様々な消費物資に対して正確な品質表示と公正な販売方法を求める声が社会的に広まりました。当時、食肉業界でも問題が指摘されていました。例えば、「牛肉大和煮」や「牛肉コンビーフ」といった缶詰に、より安価な馬肉が牛肉として使用されたり、原材料が不明瞭なまま「合挽き肉」と表示されて販売されたりするケースが見受けられました。こうした不透明な表示は消費者の信頼を損なうものであり、食肉においても適正な品質表示と販売方法が求められるようになったのです。

基準の策定と主な改正

こうした状況を受け、農林水産省は昭和52年（1977年）1月26日に、畜産局長の通達として「食肉小売品質基準」を正式に定めました。策定以降、この基準は時代の変化や流通状況に合わせて何度か改正されています。

• - 平成5年（1993年）: 輸入食肉の流通量が増大したことに伴い、消費者が混乱しないよう、食肉の部位表示に原産国での一般的な呼称の一部を併記することが認められるようになりました。
• - 平成11年（1999年）: 平成11年9月1日からの適用として、「黒豚」の明確な定義がこの基準の中に明記されました。
• - 平成17年（2005年）: この基準の最終改正は、平成17年3月1日に行われています。

基準の主な内容

部位表示

本基準では、牛肉と豚肉について、それぞれ定められた特定の部位名を使用して表示することが定められています。

• - 牛肉: 基準によって11部位が定められています。これ以外の部位については、一般社団法人日本食肉格付協会が定める「牛部分肉取引規格」に準じて表示されます。
• - 豚肉: 基準によって8部位が定められています。これ以外の部位については、一般社団法人日本食肉格付協会が定める「豚部分肉取引規格」に準じて表示されます。

「黒豚」の定義

消費者に人気の高い「黒豚」についても、この基準で明確な定義がなされています。「黒豚」と表示できる豚肉は、バークシャー種の純粋種の豚肉のみと定められています。平成17年の改正版の時点では、このバークシャー純粋種の生産国に規定はありません。このため、輸入されたバークシャー種の豚肉も「黒豚」として販売することが可能となっています。ただし、将来的には、この「黒豚」表示を「国産のバークシャー純粋種」に限定しようとする動きも関係者の間で見られます。

鶏肉

なお、鶏肉やその内臓については、この食肉小売品質基準の対象ではなく、農林水産省が別に定めている食鶏小売規格に基づき、それぞれの部位名が表示されます。

まとめ

食肉小売品質基準は、過去の不正表示問題を克服し、食肉の適正な表示と販売を促進することで、消費者が安心して牛肉や豚肉を選べる環境を整備するために重要な役割を果たしています。基準は時代の変化に合わせて改訂を重ねながら、食肉流通の透明性向上と消費者の信頼確保に貢献し続けています。

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