飯島幡司

飯島 幡司

生涯と多岐にわたる業績

飯島幡司は、明治21年（1888年）5月12日に現在の大阪市西区江戸堀で生を受け、昭和62年（1987年）1月11日に満98歳でその波乱に富んだ生涯を閉じました。経済学の素養を基礎としながらも、実業界において類まれなる経営手腕を発揮し、戦前から戦後にかけて日本の産業、特に大阪経済の発展に深く貢献した人物です。

幼少期にはキリスト教の洗礼を受け、明星商業学校（現明星中学校・高等学校）で学びました。その後、旧制神戸高等商業学校に進み、大正2年（1913年）には東京高等商業学校（現一橋大学）の専攻部を卒業しています。東京高商在学中には、後の大阪市長となる関一教授から指導を受け、卒業後も親密な交流を続けたことは、彼のキャリア形成に少なからぬ影響を与えたと考えられます。

学究の道を志した飯島は、大正3年（1914年）、母校である神戸高等商業学校の講師に着任し、後に教授に昇任しました。教育者としての将来も嘱望されましたが、大正7年（1918年）、久原財閥の実力者である津村秀松氏の強い誘いを受け、実業界へ転身を決意、久原商事に入社しました。

久原財閥傘下にあった大阪鉄工所（現在の日立造船）は当時、深刻な経営危機に直面していました。飯島は津村氏と共にその再建を託され、専務として辣腕を振るいます。会長を務めた津村氏を補佐しつつ、彼は抜本的な改革を断行し、見事に同社を立て直しました。その手腕は高く評価され、昭和7年（1932年）には再建の完了を見届け、津村氏と共に大阪鉄工所を退任しました。

同年、飯島は朝日新聞社に入社し、論説委員、出版局長、監査役などを歴任しました。新聞事業を通じて、言論や文化事業にも深く関与します。特に戦後、日本の復興期において、大阪での民間放送事業の創設に情熱を注ぎ、朝日放送の設立に中心的な役割を果たしました。初代社長として、黎明期の日本の民間放送の基盤を築き上げた功績は特筆に値します。

実業界のみならず、戦後の関西経済界においても指導的な役割を担いました。昭和22年（1947年）には、関西経済連合会の第2代会長に就任し、戦後の混乱からの経済復興、そして地域経済の発展に尽力しました。その他にも、昭和21年（1946年）に大阪ロータリークラブ会長を務めたのをはじめ、海洋社代表取締役、日本汽船取締役、横浜鉄工所取締役、日本産業常務、昭和商事部取締役、向島船渠取締役など、数多くの企業の経営に携わり、幅広い分野でその才覚を発揮しました。

受賞歴と栄典

長年にわたる経済界および社会への貢献は高く評価され、昭和40年（1965年）には大阪文化賞を受賞しています。また、国際的な交流や功績に対しても栄誉が贈られ、ローマ法王庁より大聖グレゴリウス勲章を、イタリア共和国からはグランデ・ウッフィチャーレ勲章を受章しました。

飯島幡司は、経済学者としての知見を基盤に、経営者として企業を立て直し、新たな産業の創設に携わり、さらには地域経済のリーダーとしても活動した、まさに多面的な才能を持つ人物でした。その生涯は、日本の近代化、特に戦前・戦後にかけての産業構造の変遷を知る上で、貴重な一頁を記しています。

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