香港特別行政区の選挙制度の改善に関する全国人民代表大会の決定

香港特別行政区の選挙制度改善に関する全国人民代表大会の決定

この決定は、香港特別行政区の政治制度を大きく変えるもので、中華人民共和国の全国人民代表大会（全人代）によって採択されました。2021年3月11日に決定され、香港の基本法である付属文書の改正権限を全人代常務委員会に付与しました。この決定の背景には、2019年の香港における大規模な抗議デモがありました。

決定に至る経緯

1997年の香港返還後、「一国二制度」の下で高度な自治が認められてきましたが、2019年の逃亡犯条例改正案に反対するデモが発生し、香港の政治状況は大きく変化しました。これを受け、中国共産党指導部は香港への統制を強める方針を打ち出し、2020年には国家安全維持法の制定、立法会議員の資格剥奪などの措置が取られました。

2021年2月、全人代常務委員会は国務院の報告を審議し、選挙制度改革の方針を決定しました。その後、全人代常務委員会法制工作委員会が決定案を作成し、全人代に提出されました。3月4日には、全人代外事委員会主任委員が記者会見で、この決定案を審議することを発表し、「愛国者による香港統治」を徹底すると強調しました。

決定の採択

3月5日に全人代で決定案の説明が行われ、審議と修正を経て、3月11日に採決が行われました。その結果、賛成2,895票、反対0票、棄権1票で採択されました。この採決結果は、中国政府の強い意志を示すものでした。

決定の内容

この決定は、以下の内容を柱としています。

選挙制度の改革: 「愛国者」を主体とした「香港人による香港統治」を確実にするため、選挙制度を改革します。
選挙委員会の権限強化: 行政長官候補者と立法会議員の大部分の候補者の選出、指名を行います。委員の定数は1200人から1500人に増員されます。
行政長官の選出: 選挙委員会委員のうち、188人以上、かつ5つの部門別委員のうち15人以上の委員による共同指名が必要です。
立法会の構成変更: 定数を70人から90人に増員し、選挙委員会選出枠、職能団体枠、地区直接選挙枠の3つの方法で選出します。
資格審査委員会の設立: 立候補者の資格を審査する委員会を設立し、香港基本法、国家安全維持法などに適合するかを審査します。
基本法付属文書の改正権限付与: 全人代常務委員会に、香港基本法の付属文書（一）と（二）を改正する権限を付与します。

全人代常務委員会による選挙制度変更

決定後、全人代常務委員会は香港基本法の付属文書（一）（二）の改正に着手しました。3月22日には委員長会議が開催され、改正案が審議されました。3月30日には全人代常務委員会で全会一致で改正案が可決され、即日公布、翌31日に施行されました。

選挙制度変更案の骨子

付属文書（一）の改正:
選挙委員会の定員を1500人に増員。
行政長官候補は、選挙委員のうち188人以上で、かつ5つのセクターごとに最低15人以上の推薦が必要。
選挙委員の750票を超える得票で選出。
選挙委員会候補、行政長官候補は「資格審査委員会」の審査を受ける必要。
付属文書（二）の改正:
香港立法会の定員を70人から90人に増員。内訳は選挙委員会枠40、職能団体枠30、地区直接選挙枠20。
地区直接選挙枠は選挙区を10に分け、各区2名選出。
立法会候補者の資格を審査する「資格審査委員会」を新設し、立候補者は選挙委員会の推薦が必要。
立法会の議決について、政府提案は出席議員の過半数、議員提案や政府提案の修正は各枠の過半数の賛成が必要。

この決定とそれに続く選挙制度の変更は、香港の政治における中国の影響力を増大させるものであり、香港の自治と民主主義に対する大きな転換点となっています。

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