馬場小室山遺跡

馬場小室山遺跡：縄文時代の記憶を今に伝える場所

馬場小室山遺跡は、埼玉県さいたま市緑区に位置し、縄文時代中期から晩期にかけての集落跡です。その範囲は馬場、三室、松木にまたがり、かつては約152,000平方メートルという広大な面積を誇っていました。しかし、2003年に遺跡の一部が競売にかけられ、開発の危機に瀕しました。その後、約4,000平方メートルが2005年3月にさいたま市指定文化財史跡となり、2015年3月には埼玉県史跡に指定され、その歴史的価値が認められました。

大宮台地に刻まれた縄文人の足跡

遺跡は、東浦和駅の北東約3km、見沼から南に入り込む谷に沿った大宮台地上に位置しています。史跡指定されている区域は、さいたま市立三室中学校の南に隣接しており、現在もその一部が保存されています。

この地は、近代に至るまで手つかずの里山として、深い雑木林に覆われていました。そのため、縄文時代の遺跡が良好な状態で保存されてきたのです。1969年以降、合計32回にわたる学術調査が実施され、数多くの遺構や遺物が出土しました。1993年には、旧浦和市が区画整理事業の一環として遺跡を史跡公園として保存する計画を立て、周辺の土地を買収しました。しかし、バブル経済崩壊後の経済不況により、区画整理事業は頓挫し、2003年には土地が競売にかけられるという事態となりました。

開発業者が落札し、宅地開発が進められることになった際には、遺跡の保存を求める運動が起こり、5,500人もの署名が集まりました。2004年9月にさいたま市教育委員会による学術調査が終了した後、宅地開発が進められましたが、残された遺跡遺構の東側部分が、2005年3月にさいたま市指定文化財史跡として指定されました。

縄文時代の環境と人々の暮らし

縄文時代前期、地球温暖化による海面上昇（縄文海進）により、現在の見沼は海（奥東京湾）であり、馬場小室山は海岸線に位置していました。紀元前4,000年頃には、海岸沿いに先住民の集落が形成され、それが馬場小室山遺跡の起源となりました。

その後、地球の寒冷化が進み、海が後退すると、この地域は内陸部となっていきました。縄文時代末期には集落は消滅したと考えられています。集落は縄文時代前期に最盛期を迎え、3〜6の集落に合計数百人が暮らしていたと推定されています。

遺跡からは、土版、土偶、独鈷石、石棒、石剣、装身具（土製耳飾り、石製垂飾、勾玉）、土器、石斧、石鏃、磨石、石皿など、多様な遺物が出土しています。これらの遺物から、当時の集落には階層が存在していた可能性が示唆されています。

集落が消滅した後、1969年頃まで約2,600年間、手つかずの雑木林として放置されていたことが、遺跡の保存に大きく貢献しました。

馬場小室山遺跡は、縄文時代の自然環境や人々の生活を知る上で貴重な手がかりを与えてくれる、歴史的に重要な場所です。

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