馬姫

馬氏（ばし）― 皇帝の寵愛を受けた女性

馬氏（生没年不詳）は、明の第11代皇帝である正徳帝の側室であり、馬姫（ばき）とも呼ばれました。彼女の人生は、一族の野望と皇帝の欲望によって大きく翻弄されたものでした。

出自と初期の生活

馬氏は、延綏（えんすい）で軍官を務めていた馬昂（ばこう）の妹として生まれました。彼女は容姿が優れていただけでなく、外国語にも堪能で、さらに騎射の腕も持っていたと言われています。当初、彼女は指揮官の畢（ひつ）氏の妻でしたが、正徳11年（1516年）には妊娠していました。

正徳帝への献上

当時、兄の馬昂は汚職が発覚して解任されていました。馬昂は、正徳帝の義子であり親しい間柄であった江彬（こうひん）に相談を持ちかけました。江彬は、馬氏が妊娠していることを知りながら、彼女を畢氏から奪い取り、正徳帝に献上することを提案しました。正徳帝は馬氏を気に入り、大いに喜びました。この献上によって、馬昂は正一品都督に任じられ、一族は高官に抜擢されました。宦官たちは馬昂を「国舅（こっきゅう）」（皇帝の舅）と呼んで、その権勢を誇示しました。

宮廷での生活

馬氏が既に妊娠していたため、多くの官人が正徳帝に諫言しましたが、皇帝は全く耳を傾けませんでした。正徳帝は馬氏を深く寵愛し、数ヶ月後には、馬昂に下賜した邸宅へ自ら赴き、共に酒を酌み交わしました。しかし、その席で正徳帝は、馬昂の新しい妾である杜（と）氏を欲し、馬昂に婉曲に断られたことに激怒し、杯を投げつけて立ち去りました。このことに恐れをなした馬昂は、翌日、杜氏と他の4人の美人を正徳帝に献上し、官職を辞しました。

その後の消息

馬氏への正徳帝の寵愛は次第に衰え、彼女のその後の消息は不明です。かつて皇帝の寵愛を一身に集めた馬氏ですが、その後の人生は歴史の中に埋もれてしまいました。

馬氏の人生が示すもの

馬氏の人生は、一族の栄達、皇帝の欲望、そして権力闘争という複雑な要素が絡み合ったものでした。彼女の例は、当時の宮廷社会における女性の地位や役割、そして運命の不確実さを物語っています。馬氏の生涯は、歴史の一側面を映し出す鏡であり、後世に多くの教訓を残しています。

伝記資料

『明武宗実録』
『明史』
* 『金陵瑣事』

もう一度検索