正徳帝

正徳帝：明朝衰退を招いた放蕩皇帝

正徳帝（せいとくてい）は、明朝の第11代皇帝であり、廟号は武宗（ぶそう）、諱は厚㷖（こうしょう）です。日本では、彼の治世の元号から一般に正徳帝と呼ばれています。父である弘治帝が立て直した明朝の国勢を、再び衰退へと導いた人物として知られています。

生涯

弘治帝の長男として生まれた正徳帝は、幼少期からチベット仏教に深く傾倒しました。即位後、彼は「豹房」と呼ばれる建物を宮中に設け、歌舞音曲に耽り、仏教経典を読誦する日々を送りました。政務を顧みない皇帝の代わりに、幼少期からの遊び仲間であった宦官の劉瑾（りゅうきん）が朝政を掌握しました。劉瑾は賄賂政治を行い巨額の富を築き、ついには皇位簒奪を企てるも、密告により計画は失敗し処刑されました。しかし、この事件を知らされた正徳帝は、皇位を望むなら譲ると述べたという逸話が残っています。

劉瑾の処刑後も、正徳帝の放蕩な生活は続きましたが、その興味は次第に軍事へと移りました。彼は自らを「鎮国公総督軍務威武大将軍総兵官朱寿」と名乗り、紫禁城内で軍事教練や演習を行うようになりました。さらには、親征と称して大軍を率いて各地を行軍するようになります。しかし、実質は敵軍がおらず、行軍先では現地の美女を誘拐して享楽に耽るのが目的でした。ある時には、夜の紫禁城で兵士に囲まれたまま馬に乗り、「蛮族の首を取ってきたぞ」と叫んだり、紫禁城が火事になった際には「何と美しい花火なのだ」と述べたと伝えられています。

こうした度重なる親征は国庫を逼迫させ、その穴埋めのために重税が課せられました。民衆への過度な負担は各地で反乱を招き、安化王の乱、劉六・劉七の乱、寧王の乱などが頻発しました。特に寧王の乱の際も、反乱鎮圧を口実に南遊を計画しますが、その間に王陽明によって反乱が鎮圧されたにも関わらず、正徳帝はそれを無視して大軍を率いて南京へ出陣しました。

正徳15年（1520年）、水遊び中に舟が転覆し水に落ちたことが原因で病に倒れ、翌年31歳で崩御しました。崩御直前に、自らの罪を悔いる詔を残したとされています。彼の死後、明朝は傾いた国勢を取り戻すことができず、衰退の一途を辿ることになりました。後継者には従弟の興王の朱厚熜（しゅこうそう）（後の嘉靖帝）が選ばれました。

宗室

后妃
孝静毅皇后夏氏
淑妃沈氏、徳妃呉氏
馬氏、杜氏、戴氏、王満堂、劉良の娘

登場作品

テレビドラマ
『明朝皇伝 〜大王への道〜』（2018年、中国、演：リウ・ルイリン）



正徳帝は、その破天荒な行動と政治への無関心によって、明朝の衰退を加速させた皇帝として歴史に名を残しています。

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