駅馬車 (アルバム)

アルバム概要

日本のカントリー＆ウェスタン、そしてエレキ・インストゥルメンタル音楽史において重要な位置を占めるアルバム、『駅馬車: ウェスターン・ヒット・メロディー集』は、スチール・ギターの名手として知られる原田実が率いるバンド、ワゴン・エースの記念すべきデビュー作です。本作は1962年4月に、当時の東芝音楽工業からリリースされました。「ウェスターン・ヒット・メロディー集」という副題が示す通り、当時の日本で人気を博していたウェスタン音楽のスタンダードナンバーを中心に構成された作品となっています。

寺内タケシの参加とその背景

本作の最も注目すべき点は、当時日本のカントリー／ウェスタン界で既に名を馳せていたジミー時田とマウンテン・プレイボーイズを脱退したばかりの若きギタリスト、寺内タケシがレコーディングに参加していることです。寺内はマウンテン・プレイボーイズでの活動を経て、新たな音楽性を模索する時期にありました。そして、このアルバムへの参加を機に、彼は自身の理想とするサウンドを追求するため、本作のリリース直後の時期に自身のグループである寺内タケシとブルー・ジーンズを結成することになります。

この事実から、『駅馬車』は単なるウェスタン・アルバムとしてだけでなく、日本のエレキ・ギター音楽の黎明期を担うことになる寺内タケシの、キャリアにおける重要な過渡期を捉えた極めて貴重な記録としても位置づけられます。彼の参加は、アルバム全体にエレキ・ギター特有の魅力的な響きを加え、従来のウェスタン・サウンドに新たな息吹をもたらしています。

参加ミュージシャン

本作には、リーダーである原田実（スチール・ギター）を中心に、当時の名うてのミュージシャンたちが参加しています。主要メンバーは以下の通りです。

原田実（スチール・ギター）：バンドのリーダーであり、その卓越したスチール・ギターの腕前で作品を牽引しています。
寺内タケシ（エレキ・ギター）：マウンテン・プレイボーイズ脱退直後の参加。後のエレキの神様となる彼の、この時期の演奏を聴くことができます。
岩倉忠雄（ベース）：リズムセクションを支えるベーシストです。
鈴木秀男（ドラム）：リズムセクションの要となるドラマーです。
宮城久弥（フィドル）：ウェスタン音楽に欠かせないフィドル（ヴァイオリン）を担当し、サウンドに彩りを添えています。
サワタリ順（唄、ギター）：ボーカルとギターを担当し、曲によっては歌声でアルバムに変化を与えています。

これらのメンバーによって、スチール・ギター、エレキ・ギター、フィドルといったウェスタン音楽の主要楽器が揃い、本格的なサウンドが実現されています。

収録曲

アルバムには、当時の代表的なウェスタン・ヒット・メロディーが収められています。インストゥルメンタルを中心に、一部ボーカル曲も含まれていると推測されます。収録曲は以下の10曲です。

Side 1

1. 峠の幌馬車
2. サン・アントニオ・ローズ
3. 駅馬車
4. スチール・ギター・ラグ
5. アパッチ

Side 2

1. わらの中の七面鳥
2. 北風さん
3. 誇り高き男
4. テキサスの黄色いバラ
5. レッド・リヴァー・ヴァレー

これらの楽曲は、当時のウェスタン音楽ファンにとって馴染み深いものであり、原田実とワゴン・エース、そしてゲスト参加の寺内タケシによってどのように演奏されているかが聴きどころとなっています。

アルバムの歴史的意義

『駅馬車: ウェスターン・ヒット・メロディー集』は、原田実とワゴン・エースのキャリアの出発点であるだけでなく、寺内タケシがブルー・ジーンズ結成へと向かう直前の活動を記録した貴重な作品です。日本のウェスタン音楽が人気を博し、同時にエレキ・ギターが新しいサウンドとして注目を集め始めた時期において、本作は両者の要素が融合した興味深い一枚と言えます。ライナーノーツが出典として挙げられていることから、当時の制作背景やメンバーの意気込みなどが詳細に記録されていたことがうかがえます。日本の音楽史におけるこの重要な時代のサウンドを知る上で、欠かせないアルバムの一つと言えるでしょう。

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