ジミー時田

日本のカントリー・ミュージック界に多大な功績を残した歌手、ジミー時田（本名：時田圭介）は、1936年 3月15日に満州で生を受けました。芸名の「ジミー」は、カントリー界の巨匠ジミー・ロジャーズへの尊敬の念を込めて名付けられたと言われています。

音楽との出会いとキャリアの始まり

旧満州で生まれた時田氏は、終戦後日本へ引き揚げ、東京都荒川区で学生時代を過ごしました。荒川区立第一中学校を卒業後、青山学院高等部に入学。高校1年生の頃、友人を通してウェスタン・ランブラーズというバンドと知り合ったことが、カントリー・ミュージックに目覚めるきっかけとなりました。米軍放送（FEN）から流れるカントリー番組を熱心に聴き、楽曲をコピーする傍ら、英語力も磨いていったといいます。

1954年、青山学院大学文学部英文学科に進学。大学では学生バンド「サンセット・バリー・ボーイズ」を結成し、音楽活動を本格化させます。さらに、1955年からは約1年間、ハワイアン・バンドに在籍し、ギタリストとしての腕を磨きました。

マウンテン・プレイボーイズの結成と躍進

キャリアにおける転換点となったのは、1957年9月でした。時田氏は自身のバンド「マウンテン・プレイボーイズ」を結成します。このバンドは、カントリー&ウエスタンだけでなく、ブルーグラスも演奏できる柔軟な編成を目指し、ギター、スティール・ギター、ベース、フィドルを基本としていました。時田氏自身は伝統的なドラムレス編成を好み、レギュラーのドラマーは一時期を除いて配置しませんでした。

大学卒業後、パンアメリカン航空に就職しますが、音楽活動との両立が困難となり、ほどなく退職。この頃、本名を改名し、「ジミー時田」としてプロの道に進んだと考えられます。

マウンテン・プレイボーイズは、当初、各地の米軍キャンプを中心に活動していましたが、1959年からはジャズ喫茶での演奏を開始。そして1960年、キングレコードより待望のレコード・デビューを果たします。1967年までの約7年間、精力的なレコーディング活動を展開し、共同名義を含め実に18枚ものアルバムをリリースするなど、日本のカントリー界の中心的存在として駆け上がりました。この間、バンドメンバーの変遷も多く、数多くの著名なミュージシャンが在籍しました。

渡米と活動の波

1967年9月、時田氏は単身で渡米。現地のアーティスト・ユニオンに加入し、クラブなどで演奏を重ね、本場のカントリーに触れる経験を積みました。しかし、愛飲家として知られる一面が影響したのか、1969年8月にはアルコールが原因とみられる体調不良により帰国せざるを得なくなります。

数ヶ月の静養を経た1970年、渡米前のバンドメンバー、特に谷岡寿夫氏らのサポートを得て、日本での音楽活動を再開します。以降、晩年に至るまで、自身の体調不良もあり活動は断続的となりましたが、複数のレコードレーベルから自己名義の作品を発表し続けました。また、他のカントリー系アーティストの作品にゲストとして参加するなど、日本のカントリーシーンとの繋がりを保ち続けました。

メンバーに見る日本の音楽シーンとの繋がり

マウンテン・プレイボーイズには、日本のポピュラー音楽史に名を残す多くのミュージシャンが在籍しました。初代ギタリストの鍋島常敬氏は、脱退後、音楽ディレクターとしてCM音楽や映画音楽を手掛ける道へ。ジャイアント吉田氏は後のドンキーカルテットで活躍。藤井三雄氏は寺本圭一や桜井輝夫らのバンドを経てスティール・ギター・メーカーを設立。碇矢長一氏はザ・ドリフターズの中心メンバーとなります。寺内タケシ氏も短期間ながら在籍し、後の寺内タケシとブルー・ジーンズ結成につながるなど、日本のロック、グループサウンズ、お笑いなど、多様なジャンルで活躍する人材を輩出しました。また、歌手の尾崎紀世彦氏も一時期、セカンド・ヴォーカリスト兼ギタリストとして参加していました。これらのメンバーリストは、ジミー時田氏とマウンテン・プレイボーイズが、日本の音楽シーンにおいていかに重要な交流の場であったかを物語っています。

作品とその他の活動

時田氏は、カントリー、ウェスタンの名曲はもとより、西部劇映画やテレビドラマの主題歌、日本のオリジナル曲など、幅広いレパートリーを吹き込みました。膨大なディスコグラフィーは、その活動の幅広さを示しています。マウンテン・プレイボーイズ単体のLP作品、他のアーティストとの共同名義やゲスト参加作品も多数存在します。また、晩年には藤浦敦監督の日活ロマンポルノ作品に音楽を提供し、劇中でマウンテン・プレイボーイズによる演奏が使用されるなど、意外な分野でも才能を発揮しました。ラジオ番組「バイタリス・フォーク・ビレッジ」の初代パーソナリティを務めるなど、メディアでの露出もありました。

私生活と晩年

私生活では、1975年に女優の宮地晴子氏と結婚しますが、1981年に離婚。同年には一般女性と再婚し、生涯の伴侶を得ました。晩年は体調がすぐれないこともあり、活動は以前のようなペースではありませんでしたが、日本のカントリー界を支え続けました。

2000年 3月10日、ジミー時田氏は東京都杉並区にて、63年の生涯を閉じました。その墓所は川崎市春秋苑にあります。

ジミー時田氏は、日本のカントリー・ミュージックがまだ一般に浸透していなかった時代から、その魅力を伝え続けたパイオニアの一人です。彼の築いたマウンテン・プレイボーイズは、多くの才能を育み、日本のポピュラー音楽史に重要な足跡を残しました。その情熱と功績は、今なお日本のカントリーファンに語り継がれています。

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