駒塚渡船

駒塚渡船（こまづかとせん）

駒塚渡船は、かつて岐阜県羽島市と現在の愛知県一宮市の間で、木曽川を渡るために利用されていた渡し船です。「駒塚の渡し」とも称され、地域の重要な交通手段として江戸時代から昭和にかけて長らくその役割を担いました。現在、羽島市指定史跡「駒塚の渡し跡」として、その歴史的な足跡が保存されています。

開設の経緯と初期

この渡船の起源は、江戸時代の享保11年（1726年）に遡ります。当時の美濃国中島郡駒塚村（現在の岐阜県羽島市竹鼻町駒塚）を領していた尾張藩の家臣、石河正章が、藩の本拠地である名古屋へ参勤するために必要としたことから、開設されたとされています。駒塚村は木曽川の対岸、尾張国中島郡冨田村（現在の愛知県一宮市冨田）と相対しており、この二つの地点を結ぶ渡船として、当初は尾張藩の直営事業として運営されました。渡船の開設は、石河氏のような要人の往来を円滑にする目的があったと考えられます。また、渡船の開設とほぼ同時期に、美濃路（美濃街道）の冨田一里塚から駒塚追分に至る駒塚街道も整備されており、これは渡船が単なる地域間の移動手段に留まらず、より広範な交通網の一部として位置づけられていたことを示しています。

渡船場の位置の変遷

開設当初の渡船場は、現在の木曽川にかかる濃尾大橋から下流へ約1500メートル、東海道新幹線木曽川橋梁からは上流へ約400メートルほどの地点に位置していました。しかし、大正時代に入ると、渡船場はそれまでの場所からやや上流側へと一度移設されています。この大正時代までの渡船場があったとされる場所には、かつての歴史を伝える案内板が岐阜県側（羽島市）および愛知県側（一宮市）の双方に設置されており、往時を偲ぶ手がかりとなっています。

明治以降の展開と近代化

明治維新後、日本の政治体制が大きく変革される中で、駒塚渡船の運営形態も変化を遂げました。明治4年（1871年）に廃藩置県が実施され、尾張藩が廃止されると、それに伴い藩直営であった駒塚渡船も一旦は廃止されることとなりました。しかし、地域住民にとってこの渡船は生活や経済活動に不可欠な交通手段であったため、駒塚村の住民たちの手によってその運航が引き継がれ、民間の渡し船として存続させることになりました。これにより、運営主体は藩から住民へと移り、より地域に根ざした交通機関となりました。

さらに、大正13年（1924年）には、名古屋鉄道蘇東線が開通し、地域の交通体系に大きな変化が訪れます。この鉄道路線との連携を図るため、駒塚渡船は再び移転し、蘇東線の終点近くにあった起渡船船橋河戸と呼ばれる地点に接続するようになりました。この時の渡船場は、岐阜県羽島郡正木村（現在の羽島市正木町）と愛知県中島郡起町（現在の一宮市起）を結ぶ形となりましたが、位置が変わっても、渡船の名前は変わらず「駒塚渡船」として地域住民に親しまれ続けました。この頃には、より安定した効率的な運航を実現するため、発動機付きの船が導入され、人力や帆走に頼っていた時代から近代的な運航へと移行が進みました。鉄道との接続は、渡船の利用圏を広げ、利便性を向上させたと考えられます。

役割の終焉と現在

駒塚渡船は、江戸時代から昭和にかけて約230年という長い期間、木曽川を渡る人々の重要な足として機能しました。しかし、昭和30年代に入ると、自動車交通の発達に伴い、人や物の移動手段は陸上交通、特に道路へと中心が移っていきます。そして、昭和31年（1956年）に現在の濃尾大橋が開通したことで、木曽川を安全かつ迅速に渡ることが可能となりました。人や貨物は橋を利用するようになり、渡し船の必要性は薄れました。これにより、駒塚渡船はその長い歴史に幕を下ろし、廃止されました。自動車交通が主流となる時代の流れの中で、渡し船はその姿を消したのです。

現在、「駒塚の渡し跡」は羽島市の指定史跡として保存されており、かつての渡船の存在を今に伝えています。木曽川のほとりに立つと、この場所でかつて多くの人々が船を待ち、対岸へ渡った歴史に思いを馳せることができます。案内板などから、渡船場の正確な位置や渡船が果たした役割について知ることができます。駒塚渡船は、近世から近代にかけての地域の交通史を知る上で貴重な存在であり、その跡地は歴史を静かに物語っています。

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