駒林邦男

駒林 邦男（こまばやし くにお）

日本の教育学者として知られる駒林邦男は、1928年に群馬県高崎市に生を受け、2011年5月27日に83年の生涯を閉じました。彼は特に、学習過程の効率化を目指すアルゴリズム化教育と、当時のソビエト連邦における教育理論の研究において、日本の教育学界に顕著な足跡を残しました。

経歴

駒林氏は、1952年に東京文理科大学を卒業後、教育研究の道に進みました。キャリアの大部分を岩手大学で過ごし、教育学部の助教授、教授を歴任しました。その間、同大学付属小学校長も務め、理論研究だけでなく教育実践の現場にも深く関わりました。1975年には、「現代ソビエト教授 - 学習諸理論の研究」と題する研究により、東京教育大学から教育学博士の学位を授与されました。これは、ソビエト教育学に関する彼の長年にわたる専門的な探求が評価されたものです。

1994年に岩手大学を定年退官し、名誉教授の称号を得ました。その後も教育への情熱は衰えることなく、日本大学工学部の教授として引き続き研究・教育活動を行いました。教育界への多大な貢献が認められ、没後には正四位に叙せられています。

研究領域と業績

駒林氏の研究は、主に二つの柱から成り立っていました。一つは、学習や思考のプロセスを段階的・構造的に捉え、効率的な指導法を構築しようとするアルゴリズム化教育です。彼は、このアプローチが児童・生徒の思考力をいかに育成できるかを探求し、その成果を多くの著作で発表しました。

もう一つは、ソビエト教育学の研究です。当時は西側諸国にとって情報の限られていたソビエト連邦の教育理論を精力的に学び、日本の教育学界に紹介しました。特に、教授・学習過程における思考や発達の問題、指導法の理論など、ソビエトの教育学者たちの研究成果を深く掘り下げました。この研究は、彼の博士論文のテーマにもなったほど、重要な位置を占めていました。

著作活動

駒林氏は、これらの研究成果を広く教育界に伝えるため、多岐にわたる執筆活動を行いました。単著としては、『思考力形成の授業 学習のアルゴリズム化』（1966年）のような理論書から、『「落ちこぼし」をどうするか』（1977年）、『一斉授業をどうするか』（1983年）、『学校のつまずきをどうするか』（1986年）など、当時の学校教育が抱える喫緊の課題に正面から向き合った実践的な著作まで多数あります。これらの書籍は、教育現場の教師たちが抱える具体的な問題に対する示唆に富んでおり、多くの読者を得ました。また、『教育サイバネティクス入門』（1977年）のような、当時最新の学際的な視点を取り入れた著作もあり、その研究の幅広さを示しています。

共同研究と翻訳

単著活動に加え、駒林氏は他の研究者との共編著や、海外の教育書の翻訳にも力を入れました。勝田守一氏らとの『授業と思考の発達』シリーズや、柴田義松氏らとの『シリーズ・教育科学の新研究』は、当時の教育学研究の重要な成果をまとめたものです。

特に、彼のソビエト教育学への貢献は、多数の翻訳書によって裏付けられます。ロシア教育科学アカデミヤ編の『一年生の教育学』、ボゴヤブレンスキーやメンチンスカヤの『ソビエト・学習心理学』、タルィズィナの『学習のプログラミング』など、ソビエトの著名な教育学者や心理学者の著作を積極的に日本語に翻訳・紹介しました。L.N.ランダの『アルゴリズムの思考方法』やB.B.ダヴィドフの『教科構成の原理』といった、学習理論や教科構成論に関する重要な文献の翻訳は、日本の教育学、特に教育方法学や教育心理学の研究に大きな影響を与えました。これらの翻訳を通じて、当時の日本の教育関係者は、ソビエトにおける先進的な教育研究の成果に触れる貴重な機会を得たのです。

結論

駒林邦男氏は、自身の独創的な研究、教育現場への深い理解、そして海外の優れた理論を日本に紹介する活動を通じて、日本の教育理論と実践の発展に多大な貢献をしました。アルゴリズム化教育やソビエト教育学に関する彼の研究は、今日なお学習や授業のあり方を考える上で多くの示唆を与えています。岩手大学名誉教授、そして教育学博士としての彼の功績は、日本の教育史において重要な位置を占めています。没後に正四位に叙せられたことは、国家もその教育への貢献を高く評価した証と言えるでしょう。

もう一度検索