骨相学

骨相学とは

骨相学（こっそうがく、独: Phrenologie）とは、脳の各部位が特定の精神機能に対応し、その発達度合いが頭蓋骨の形状に現れるとする学説です。19世紀に大きな影響力を持ったものの、20世紀以降は科学的根拠がないとされ、疑似科学として否定されています。また、頭蓋測定学とも呼ばれます。

骨相学の誕生とガル

骨相学は、ドイツ人医師フランツ・ヨーゼフ・ガル（1758-1828）によって提唱されました。彼はウィーン大学卒業後、脳の解剖学と神経生理学の研究に尽力し、神経解剖学において重要な発見をしました。その一方で、脳の機能と頭蓋骨の形状の関係に着目し、独自の「器官学」を提唱しました。ガルは、脳が27個の「器官」から構成され、それぞれの器官が精神活動に対応すると考えました。例えば、「破壊官」や「粘着官」といった器官の発達が大きい人は、執拗で残忍な傾向があると主張しました。

ガルの器官学

ガルの器官学では、脳は「色、音、言語、名誉、友情、芸術、哲学、盗み、殺人、謙虚、高慢、社交」など27個の精神活動に対応する器官の集合体とされました。これらの器官の大きさや形状が、頭蓋骨に反映されるとされました。これは、脳機能の局在性を初期に提唱したものであり、近代骨相学の始まりです。しかし、ガルの主張は、精神的な気質が頭蓋骨の形状にそのまま現れるという極端なものであり、現在では誤りであることが判明しています。

ガルの迫害と追放

ガルの学説は、唯物論的でありキリスト教に反するとされ、1802年にウィーンから追放されました。しかし、ガルはその後もヨーロッパ各地で講演を行い、解剖学者ヨハン・シュプルツハイムと共に研究を続けました。彼らは『神経系、とくに脳の解剖学と生理学』や『脳とその部位の機能』といった著作を発表しました。

「骨相学」という名称の由来

ガル自身は、自身の学説を「頭蓋の研究」と呼んでいましたが、後に英語圏で「骨相学」(phrenology)と呼ばれるようになりました。この名称は、トーマス・フォースターがガルの学説をイギリスに紹介した際に名付けたもので、ギリシャ語の「心」を意味する phrēn と、「知識」を意味する logos から構成されています。

骨相学の隆盛

骨相学は、19世紀に「最も人気があった大衆科学」と言われるほど流行しました。その理由は、精神と頭蓋骨の対応という考え方が直感的に理解しやすく、専門家でなくても頭蓋骨の形から個人の性格を判断できるとされたからです。骨相学者は各地に出没し、有名人は肖像画で額を広く描かせ、思慮深さをアピールする風潮も生まれました。また、骨相学は自助の思想とも結びつき、アメリカでも人気を博しました。1832年にはパリに骨相学会が設立され、頭蓋骨の収集や脳の計測が流行しました。

骨相学の衰退

1840年代に入ると、骨相学は衰退し始めました。大衆的な人気の一方で、通俗的な悪用が横行し、骨相学者は山師扱いされるようになりました。また、解剖学や神経学の発展によって、脳の機能がより詳細に解明され、ガルの器官説は否定されました。しかし一方で、犯罪者の頭蓋骨を計測するという初期の骨相学的な犯罪研究から、犯罪生物学が発展しました。また、骨相学の「気質」判定は、優生学や断種論といった危険思想にもつながっていきました。

骨相学の遺産

骨相学の「頭蓋骨の形から性格がわかる」という主張は否定されましたが、精神機能が特定の神経構造に基づくという考え方は、脳機能局在論として現代科学に受け継がれています。また、言語や道徳性などの精神機能が、独立して存在し、遺伝的であり、個別に機能するという考え方は、「心のモジュール説」として認知科学や心の哲学で議論されています。さらに、額が広い＝知的という考え方は「ハイブロウ」という言葉に残り、現代にも影響を残しています。また古人類学では、化石人類の頭蓋骨の形状から、知能や特定の脳機能を推測する研究が行われています。

骨相学は、その科学的根拠のなさから疑似科学とされていますが、その影響は多岐にわたり、現代科学においても重要な視点を提供しています。

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